―この世界に散る"マギ"達よ

―第0迷宮のジン、"夢魔・ウリエル"

―私の主は決まった





「…今のは?」


「どうした?アラジン。今日はヤムライハさん達にシエルのジンの話聞きに行くんだろ?」
「あ、うん…わかっているよアリババくん」



世界は回り出す。
小さな変化が齎す、大きな大きな―………。







「いい?シエルちゃん。まずは迷宮から」
『迷宮…っていうからには迷路みたいなものじゃないんですか?』
「うーん…ちょっと違うのよ」


腕を組んだヤムライハが難しいと思うけど頑張って聞いて、と続ける。


「迷宮っていうのは…およそ14年ほど前から世界各地に出現した古代王朝の遺跡群なの。
その内部には貴金属・宝石・財宝のほかに、魔法道具などが共に眠っている」

『…じゃあ、その宝物を目当てにその迷宮攻略を…?』
「まぁそうなんだけど、迷宮攻略を目指す人の中でも探し求めるのが"ジンの金属器"よ」
『ジン……』


一度聞いたことのある単語。
自分が夢で見たあの天使…ウリエルは己を"ジン"だと言った。
人が"ジン"だということがさらによくわからず、混乱を招く原因になるのだがヤムライハの話を落ち着いて聞くことにした。


「ジンは"ジンの金属器"と呼ばれる道具に封印されている神話に登場する精霊で"迷宮"の支配者としてその奥深くに眠っており、持ち主である"迷宮攻略者"の呼び出しに応じ強大な力を与えるの」
『じゃあ…あの夢に出てきた…』
「えぇ。ウリエルはジンの1つよ。ただ…ウリエルは少し特殊なジンなの」
『特殊?』


首を傾げたシエルにヤムライハは大きく頷く。


「ウリエルが特殊だっていうのはまたアラジンくん達が来てからするわ。彼らにも知らせるべき事項だから」
『そんなに特殊なんですか?』
「特殊ね。私も正直ウリエルの存在を信じていなかったからまだ信じきれていないぐらいに特殊なの」


ピッと人差し指を立ててシエルに詰め寄る。
特殊、ということに自分の存在も特殊なので否定も何もなくなってしまう。
そんなにもジンというものが特殊なのか。
自分が持っているのはまだそれも分からない程の乏しい知識。
ダメだなぁ思ってしまうがヤムライハはそれを感じ取ったのか頭を撫でて大丈夫よとシエルを励ました。


「ジンはアリババくんや王が従えているわ。…王に至っては7つのジンを」
『7つ!?』


完全に理解はできなくても7つのジンを従えているというのが凄いということぐらいは分かる。
ポカンと開いた口が塞がらないでいると扉の向こうから複数の声。
来たわね、とヤムライハがドアを開けるとアラジン、アリババ、そして予想外のもう1人。


「邪魔するぞシエル、ヤムライハ」

『…シンドバッド……様…?』

「…ジャーファルさんに怒られても知りませんからね」
「はっはっは、何のことかな」


清々しいまでの笑顔で現れた王にため息をつくヤムライハ。
廊下でバッタリ会ったからついて来たらしい。
既にアラジン達も見つかっても知らないという領域だ。


「まぁ…いいんじゃねーの?」
「ギリギリになったらジャーファルさんが連れ戻しに来ると思います…」

『ジャーファルさん……』


彼らはもはやツッコむ気にもならないのだろう。
シンドバッドも同席する中、話は始まる。


「じゃあ…まず迷宮の本質についてよ。迷宮っていうのは"創世の魔法使い"…"マギ"の力で出現するの」
『えっと……王となる者を選び導く役目を持つ者、でしたっけ』
「へぇ!もうそんなことも覚えてんのか…」
「ジャーファルが覚えがいいと言っていたが…」

「流石私の弟子ね!…じゃなくて、続けるわよ。迷宮はマギが王と認めた者が現れた時に現れるもので、一度でも誰かが攻略すると消滅してしまう」
『消滅…?なくなるんですか?』

「えぇ。だから我先にと攻略しようとするものが出てくる」
『でも…攻略できるのはマギが認めた者だけ…?』
「その通りさ!」


アラジンがどこか嬉しそうに言った。

知識は浅くともこの短期間で得た広い知識で何とかカバー。
皮一枚ぐらいの薄さではあるが繋がっていく。
だがそれがウリエルの特殊さにどう繋がるのかはよくわからなかった。


「ここからが問題であり重要なウリエルの特殊なところよ」


アリババ・アラジン・モルジアナも息を飲み、シエルも次の言葉を待った。
ヤムライハの言葉を続けたのはシンドバッド。


「第0迷宮ウリエル…彼女は唯一マギの選んだ者以外を迷宮に導くことができるジンだ」
『「「「!」」」』
「そして夢魔の異名を持ち、夢に現れるらしい。……心当たりはあるだろう?」
『…はい、確かに……夢に』


あの姿は夢とは思えない程鮮明に思い出せる。
夢の魔物、とはよく言ったものだ。

その話を聞いたアラジンが少し驚いたような顔をした。
シンドバッドとヤムライハの話はまだ続く。


「主人を選ぶジン…今までその存在は聞いたことがなく私たちも迷信程度にしか思ってなかったわ」
「だがシエルの話を聞く限りそれは本当だったらしいな」


「僕も今日夢を見たよ」


アラジンは首からぶら下げた笛を手にどこか楽しそうに言った。
本当?と問うヤムライハにうん、と答えシエルを見やる。

夢に現れた彼女はどこか嬉しそうだった。
言いようからしてマギだけに伝えられたのだろうが、なぜか彼女のことは元から知っていたような、そんな気がしてならない。
厳しい表情をしているウリエルがどこか優しそうな顔をしていた。


「主人を見つけたって、彼女は笑ってた」













「…へー、あのウリエルがついに主人を決めたか」


何度言っても俺のモンにならなかったくせに、と呟き寝転がっていた体を起こす。


「どんな奴か…」


長い黒髪がゆらりと揺れ、血のような赤い瞳が開かれ仰いだのは空。
夢なんてものを、見るのは久々だった。




「確かめるっきゃねーよなー」




この言葉が指し示す意味を。
ジュダルがニヤリと笑ったことを知る者は誰もいなかった。









騒ぎ出す狂騒曲

(僕はマギなんだ。さっき言っていた"創世の魔法使い"さ)
(アラジンくんが…マギ…?)




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