頭に生えた耳。
お尻に生えた尻尾。

しっかり神経も通っていると分かればそうでなくともとりあえず触りたくなる。
面白そうだとペタペタそれを触るピスティにシエルはひたすらに耐えていた。
くすぐったいが声は出さず押し殺しぷるぷると震えているのが伺える。


「いいねーこれふわっふわじゃん」
『あの…く、くすぐったいんですけど…』
「いいじゃん我慢我慢。ほらヤムも触ってみなって」
「…実は私も気になってたのよね…」

『……というかなんでこんな私ばっかり…』


最初は自分以外に降りかかった災厄だった筈。
しかし何の因果かそれ以降はシエルばかりに変化が起こる。


「いいじゃねーの。なぁシエルちゃん俺も触って……「いいわけないでしょバカ」
「うっせーお前に聞いてねぇよy!」
「はぁ!?どうせシエルちゃんのこと変な目でしか見てないくせに!」

『え、ちょ、あのお二人とも…?』


だからなぜこの2人は自分を挟んで喧嘩を始めてしまうのだろうか。
シエルは止めようと手を出そうとしたが入るだけ悪化しそうなので声をかけるだけかけて一旦身を引いた。

いくらヤムライハとシャルルカンがよく喧嘩ををするからと言って心配がないわけではない。
すぐに収まるといいなぁと思いながらシエルはそそくさとジャーファルたちの元に駆けて行く。


「大丈夫だろう。あまり気にするな」
『…はい』


時と場合にもよるが、むしろあの2人のあれは微笑ましい部類される。


『………』
「?シエル、どうかしました?」
『あ、……なんでもないです』

「そうか?」

『!』
「がっ!?」


シンドバッドの奇声に思わずジャーファルが目を見開いた。
シエルがシンドバッドに何をしたか。

答えは簡単。エルさんがシンドバッドの長い長い髪を思いっきり引っ張ったのである。


『え!?あっご…ごめんなさい!』
「ど………どうした…突然」

『えっと……なんだか体が勝手……に…!』
「うっ!」
『きゃああすいません!』


自分に起こっている今の出来事が理解できずシエルが頭を下げれば今度は視界にちらついたジャーファルのクーフィーヤに飛びついた。

まさに体が勝手に、なのだ。
なんでなんで、と慌てるシエル。
思わずその場でしゃがみこんで頭を抱える。
しかし頭を抱えた指を隙間から猫耳がへたり込んでいてどこか愛らしい。

少し乱れた髪を直しながらシンドバッド。
ズレたクーフィーヤを正しながらジャーファル。

今の流れで止まった部屋の空気にシャルルカンがシエルにひょこりと近寄った。


「今のは…?」
「……シエル?」

『うぁぁごめんなさいぃぃ!』

「…シエルちゃんシエルちゃん、ちょっとこっち見てみて」
『へ?……』
「…アンタ何してんの?」


ヤムライハが白い目でシャルルカンを見つめた。
シャルルカンは自分の身に着けている長い鎖をぷらぷらと揺らしている。

それを見つめたシエル。
下に向いていた耳がピンッと反応し尻尾がゆらゆらと揺れる。


『……―っ!』
「うおっ!!」


揺れる動きを目で追いそして耐えきれなくなったのかシエルが鎖に飛びついた。
その様子を見て辺りは悟った。


「猫か」
「猫ね」
「猫ですね」
「猫だ〜」


動くものを追う習性のある猫。
まさかそこまで猫になっているとは思わなかったが、目の前の状況がすべてを教えてくれた。

しかしシンドバッドが気に入らないのは今シエルが戯れているのがシャルルカンだということ。


「…ジャーファル」
「なんですか」

「猫じゃらしを持ってこい」


こんなことばっかりしてるから仕事がたまるんですよ、と。
色々思うことはあったがシエルの反応が面白そうなので付き合ってしまうことにした。

今日もシンドリアは平和です。


『…な…なんで反応しちゃうの…!』
「ほーらこっちこっち」

『!』


ただし、明日からの業務は平和でなくなることは確か。






シンドリア魔力暴走事件簿10

(シエルちゃん見事に遊ばれてるわね)
(いいんじゃない王様楽しそうだし)

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