襲い来る迷宮生物たちを薙ぎ倒しながら心の片隅に心配するシエルの事。
「…シエルのやつ…大丈夫かな……」
「今は…エルさんを信じて前に進むしかないよ」
何かが起こる、そんな胸騒ぎはしながらもその不安を拭う術など持ち合わせてはいなかった。
しかし確実に一歩、また一歩とザガンの元へと歩を進めていく。
蟠りの吹っ切れた白龍もまた力となり、4人全ての力を合わせて進んでいった先。
ザガンから村人を救い、シエルと合流するためにも。
肩を並べて戦うモルジアナの力に宿ったアモンの力。
そしてシエルが与えたものはモルジアナの自身となってその拳に宿っている。
「今すぐ村人を解放しろザガン!!こんなふざけた真似やめさせてやる!!!」
「やれるもんならやってみなよ〜。それよりも…君たち彼女をどうしたの?」
「あいつは…シエルはお前の魔の手から村人を解放しようと頑張ってるはずだ!」
「………ふ〜ん?」
目の前に君臨するは迷宮の支配者。
腕を組んで少し不満そうな表情をしているザガンに4人は己の剣や拳を向ける。
彼を倒さなければあの村に平穏は訪れない。
人を助けたいだなんて偽善かもしれないがそれさえできなければ自分たちはこの迷宮を攻略する権利なんてないのだから。
「本当にその判断……正しかったと思うのかい?」
「村人達を助けようというシエル殿が正しくないと!?」
「どこまでもふざけたヤツだ…!」
武器を握る手に力が入る。
しかしアラジンは、先程以上に心のざわつきを感じていた。
ザガンの言うことを真に受けるわけではない。
拭いされない胸の蟠り。
シエルをあの場で1人にしてしまった事に底知れぬ不安を感じた。
一筋流れた汗に気付いたモルジアナが拳をザガンに向けたままアラジンに語りかける。
「アラジン、シエルさんならきっと大丈夫です」
「…そうだねモルさん。エルさんがそう簡単に……!!!」
ピィィィ
モルジアナの声に頷く前に、白く輝くルフが騒がしく羽ばたいた。
「……エルさん?」
その様子にザガンは真顔でため息をつく。
なぜザガンがため息をつくことがあろう。
顔を手で覆っていたザガンの指の隙間から僅かに覗く怪しい瞳が4人を貫く。
「残念だね、君たちはもう彼女に会うことは叶わない」
「……どういうことだ…?!」
「彼女はね…君たちがシエルとか言うあの子は」
彼らはまだ知らない。
堕に堕ちた彼女のことを。
そして知ることになる。
「ウリエルを覚醒させるための器に過ぎないからね」
「器……!?」
この迷宮に導かれた彼女の真実を。
輝くルフが黒く染まっていく。
アラジンが目を見開いてバッと宙を見上げた。
ルフたちが語る辛辣な現実は目の前に立ちはだかる。
それは時に幸を、時に不幸を与えに。
『ドゥニヤ、イサアク。先に行け』
「ウリエル様はどうなさるおつもりで?」
『体を慣らしてから追いかけよう。私が着くまでに………』
下すは残酷な言葉
(4人を始末しろ)
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