「シエルちゃーん!!」
「シエル〜出ておいでよ〜」
「…シン……貴方のせいですよ」
「俺のせいなのか!?」
ヤムライハとピスティがノックする扉はシエルの部屋の扉である。
前日の夜の事件から一夜。
まさかあんなタイミングで自分にあんな災難が降りかかるとはシエルすら予想だにしていなかった。
酷い蔑みの目を向けるジャーファルにシンドバッドは自分を指さし声を上げる。
確かにシンドバッドのせいではないのだが、如何せんタイミングが悪すぎた。
ちなみにシャルルカンには既に色々な者からありとあらゆる制裁が加えられている。
「王様ってばデリカシー無さすぎだね」
「うるさいぞピスティ」
「さっさとシエルちゃんの心のケアしてあげてください!」
「このままじゃ仕事もままなりません」
「だから俺のせいなのか」
「「「(王の/王様の/貴方の)せいです(でしょ)」」」
口をそろえて言われてしまえばもう自分のせいを言わざるを得ない。
まいったと言わんばかりにシンドバッドは頭を掻いてシエルの部屋の扉の前に立った。
「…シエル、入るぞ」
沈黙を肯定と取り、シンドバッドはシエルの部屋へと足を踏み入れる。
シエルはわかりやすくベッドの上にいた。
その頭には真っ白なシーツ。
しかし、頭の形は丸ではなく、三角形の山が2つぴょこりと飛び出している。
改めてあれが夢ではなかったことを確認して、そこにいるであろうシエルに近づいた。
「昨日は…その、悪かった。シャルルカンに乗せられてあんな店に連れ出して」
『……き…昨日のは…なかったことにしてください…』
泣きそうになりそうな声で聞こえてきたシエルの声は昨日一瞬でも浮かれていた下心に深く突き刺さった。
シエルが振り向き、頭からシーツがずり落ちる。
泣きそう、というより半泣きといった方が正しいだろうか。
感情にシンクロしているのかシエルに生えた白い猫耳は垂れ下がっていた。
『昨日!シンドバッドさんは!何も見てないですからね!』
「……わかった。もう忘れた」
『絶対ですよ!』
「よし、絶対にだ」
ポン、と頭を撫でながら言ってやればシエルは目を細めさせた。
猫耳が時に手に当たりふわっとした感覚が気持ちいい。
「(…気持ちいいな)」
この感覚には病み付きになりそうである。
心なしかごろごろとシエルの喉がなっている気がした。
触りたい、とという願望に忠実に。シエルの座り込んでいるベッドに腰掛けようと思い、手をベッドに下した瞬間。
『にゃぁぁっ!?』
「…尻尾!??」
『痛い!痛いですシンドバッドさん!』
体重を乗せたシンドバッドの手が下敷きにしたのはシーツに隠れてて見えなかったシエルの尻尾だった。
まさに身の毛がよだつ、というのを体現するようにシエルの耳の毛がぶわっと逆立ち生理的な涙が噴出してくる。
「シエルちゃんどうしたの大丈夫!?」
「シン何してるんですか!!!?」
バンッ
扉越しからでも聞こえたシエルの悲鳴と鳴き声に思わず乱入したヤムライハとジャーファル。
遅れてピスティも乱入したわけだが彼女たちが見たのは尻尾を潰されたことにより涙目になったシエルと、
慌ててベッドの上で正座をしていたシンドバッドの姿だった。
後に彼がシャルルカンと同じ目に遭うことになるのは言うまでもないだろう。
シンドリア魔力暴走事件簿9
(…にゃぁぁ……)
(よしよしシエルちゃん…)
(ていうかこれって飾りじゃなかったんだねぇ)
(…シン)
(すまん…まさか尻尾まであるなんて思わなんだ)
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