シンシンと降る白い粉雪。
あの銀世界を拝める日はもう訪れないのだろうか。

シエルは空を見上げて一人物思いにふけっていた。

元の世界にいい思い出はない。
しかし、美しいものを見て肌で感じ、感動したあの記憶に刻まれている。
忘れたい記憶だって嘘ではないのだ。

薄暗い空、真反対の白い雪は心に安らぎを与えた。
瞳を閉じればまだその様子は鮮明に浮かぶ。



『…雪かぁ……』



まず、この世界に雪というものは存在するのだろうか。それすら疑問に想う。
手のひらを広げて空に向けてみた。
この手に冷たくも心を暖かくさせる雪が降ることはもう一生ないのだろうか。


「風邪を引くぞ」
『へっ!?あ、すいません…』


空を見上げていたシエルの隣に突然降り立ったのはシンドバッドだった。
防寒にと持ってきた布をシエルの肩にかけシンドバッドはシエルの見上げていた空を見上げる。


「何を見ていたんだ?」

『そうですね…空を通して、昔見た景色を思い出していました』
「景色?」
『はい。まるで別世界のような…視界一面が綺麗な銀色に染まる世界を』


いつ思い出しても鮮明に美しい。


『皆さんにも…是非見てもらいたかったです』


もう、見ることも見せることもできないかもしれないけれど。
誰かと記憶を共有できればいいのにとシエルは珍しくありえないことを思っていた。

しかしシンドバッドはまた空を見上げ、何かを思い出すように瞳を閉じていた。


「…銀世界か…俺も一度だけ見たことがあったな」
『えっ?』

「昔世界中を冒険していた頃にな。北の国で美しい雪景色を見た」
『!こっちにも雪があるんですか?』
「あぁ。このシンドリアで見ることは叶わないがな」


思わぬところで見つけた世界の共通点。
シエルは少し感動して両手を合わせた。
北の国、というのはどこかはわからないがやはり寒いところなのだろう。
シンドリアの生活に慣れてしまっているシエルにその寒さが耐えられるかはわからない。

だが、行きたいと。
もう一度あの銀世界をこの目に収めたいと、そう思った。


『いいですね、私も見たいです。雪』
「……そうだな」


シンドバッドはシエルの髪に手櫛を入れる。
思わずシエルがシンドバッドに振り返ればはにかんだ表情を浮かべた彼がそこにはいた。


「シエルの髪も、綺麗な銀色だ」


攫われるように無骨な手に滑る銀髪。
自分で見ていてもなんとも思わないそれが、なぜ彼の手に取られると美しく見えるのだろう。

顔に登ってくる熱を収める術が欲しい。
今すぐにでもこの熱を冷ます冷たい雪が降ってくれないかとすら思った。


「なぁシエル」
『はい?』

「もしもこの世界が穏やかになったら…」


その手に掬った銀色の髪に、シンドバッドは口づけを落として。



「2人きりで雪景色を見に行こう」



"2人きり"だと言った言葉の裏に隠した真意に、シエルは気付かないだろう。
それでもいい。
隣に彼が、彼女がいてくれるのなら。



『私でよければ、どこまでもお供します』



―君じゃなきゃダメなんだ

押し殺した声は、暗闇の空に溶けて消えた。

いつか2人で見に行くであろうあの銀世界の雪景色で。
いつか、今押し殺した気持ちを伝えられればいい。


辺りに誰の姿も見えない王宮の片隅で、2人で交わした約束は―





見上げる白い世界の中

(貴方と共にいられるのなら)
(君と共に歩めるのなら)


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クリスマス特別番外です。
しかしクリスマスっぽさがない←
ほんの少しだけホワイトクリスマスを意識してみました!

ホワイトクリスマスに何か約束を交わすのっていいなぁと思って。

遠まわしなプロポーズ。でもそれには気づかない。
そんなすれ違いの中交わす約束に意味がある。


なんてロマンチックなこと言っても天音にそんな甘いリアルは訪れませんがね!!(^ω^)

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