「あら!シンドバッド様久しぶりじゃな〜い!!」
「シンドバッド様よー!」


キャァァァ!と弾け飛ぶような歓声、そしてシャルルカンとシエルが入った途端に再び耳を割るような歓声。
なんで私まで…とシエルは全力で思ったがここまで来てしまってはしょうがない。
そうは言っても外で食べるご飯もまた美味しいのでいいとしよう。

ただし酒は勘弁したいものだが。


「やっほーアジーザちゃん!」
「まぁシャルルカン様!本当においで下さったのですね!」
「そりゃぁ可愛いアジーザちゃんの頼みとあれば〜!」

『……』


熱気が凄い。
何度か夜の店に連れられていったことはあるが何度来ても慣れない。
一歩引きそうになって足を後ろに引こうとしたらドンっと誰かにぶつかった。

え、と後ろを振り返れば店の女性だろうか、着飾った可愛らしくも美しくもある女性が座り込んでいた。


『すいません、大丈夫ですか?』


男になるとぶつかっただけでも結構な衝撃だったのかとシエルは反省しながら心配そうに女性に手を差し出す。
店に入る前から人に迷惑をかけるなんてダメだなぁ…と下手に出ている姿がどう映ったのかはわからないが。


「なんてお優しい方なの…!」
「よく見たら可愛いお顔してらっしゃるのね〜!」
「私のテーブルに来ない?サービスするわよ!」

『え、え』


「うお〜シエルちゃんってば女の子にも大人気っすね王サマー」
「まぁここはそう言う店だしな、麗しい女性なら許す!」
「…そっすねー!!」

『ちょ、助けてくださいって…!』


いくら女性といえど今は男。
邪険に扱うわけにも行かず我慢しているのだが露出の多い格好をしている女性たちに囲まれるのは慣れない。
いくらヤムライハ達のせいでそれなりに忍耐はあれど、好意を持って接してくる女性などいたことがないからである。

それが仕事だから、といってしまえばそれまでなのだがシエル的にはある意味気が気ではなくなってきそうだ。
3人が席に座り女性に囲まれ酒に囲まれ。
シエルは勧められる酒をことごとく断り禁酒を貫いた。


「勿体無いわ、お飲みにならないの?」
『えっと…仕事上今日は飲めないんで…』
「はっはっは、シエルには酒を勧めないでやってくれるか」

「真面目な方なのね〜!」
「そんなシエル様も素敵〜!」


女性から見た男性視点、男性から見た女性視点とはいったいなんなのだろうか。
もう色々頭が混乱しそうだが一線を置いて人事として考えるように努力をしたりもした。

隣にシンドバッドもシャルルカンもいるがやはりこういった店の雰囲気に慣れるのには時間がかかりそうだ。



〜♪

『…?』



店内にテンポの変わった音楽が流れ始める。
何事かと音源に耳を傾けた時、自分の膝の上にあらぬ重量を感じた。



「「「「「サービスタ〜イム!」」」」」

『え……ええぇえぇ!?ちょっ…!』



やったーと喜んでいるシャルルカンを横目に。
なぜか自分の膝の上に乗っている女性が服を脱がしにかかっているではないか。

さすがにこれは待てと、慌てて女性を引き剥がしシンドバッドの方に逃げようと思ったら余計に多数の女性に捕まってしまう。
思いっきり振り払うわけにもいかず困惑するシエルに、シンドバッドはやっと助けの手を伸べシエルの手を引いた。
しかしその表情はどこか楽しそうだった。


「すまないな、あまり虐めないでやってくれ」


シンドバッドが言えばおとなしくなる女性たち。
最初から助けてくれればいいのに、と思ったシエルの乱れた服装、完全にシエルの胸板は露出してしまっている。


「いやーシエルちゃんてばモテるね〜」


シャルルカンは茶化したが、これが女だったら大惨事だと思ってシンドバッドの目の前で息を付いた時。





ボンッ








「「「!!!!!」」」







まさか

完全に凍りついた空気の中シエルが冷静に胸元に手を当てて
ついでに頭に感じる違和感はいったい何なのか。

そちらにも手を当て、感じた感触はなぜかふわふわしている。



『きっ……』



気付けばシンドバッドの鼻から流れている血に負けず劣らず顔を真っ赤にしたシエル。

―耳だ。ふさふさした、獣耳が生えている。

しかしその事実を受け止めるよりも前にシエルの口から出てきた声は。





『きゃぁあああああああああああああ!!!』





そうして叫んだシエルの声は王宮まで聞こえたとかなんとか。
シンドバッドがその日目に収めた猫耳の生えて胸元が完全に露出してしまっていたシエルは、しばらく忘れられそうにもなかった。





シンドリア魔力暴走事件簿8

(もうお嫁に行けないぃいぃぃい…!)

(俺がもらってやろうかシエルちゃん)
(近づくなシャルルカン)
(じゃあその鼻血どうにかしたらどうスか王サマ)




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次は猫耳編です←

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