まさか男になってもここまでの破壊力とは誰が想像しただろうか。

今時人気の草食系男子と言うやつだろう、なぜか性転換したシエルが妙にしっくりきてしまう。
あっという間にシエルの噂は宮中内を巡り、道行く者の殆どがシエルに振り返った。
少しあどけなさを残しているがその姿はまさに美少年。

わかっていたとしても思わず振り返ってしまうだろう。


「……」


俺もまさに、今そんな感じなのだから。


『どうしました?シンドバッドさん』
「………いや、男なのか…と思ってな…」
『あはは…残念ながら男なんですよねこれが…』


苦笑いする姿もまた絵になるから困ったものだ。
今のシエルは男。わかっていてもそういう風にしか見えない。
ジャーファルも似たようなことを考えているのだろう。いつもよりも手が進んでいない気がする。


「…シエル…ちょっと席を外してもらっても?」

『え?あ、わかりました。じゃあちょっと出てますね』
「お願いします」

『いつぐらいに戻ってきます?』
「……昼ぐらいでいいですよ」
『了解です』


そう言ってシエルはジャーファルの言いつけ通り一度部屋を出ていった。
言ったからには帰ってくるのは昼過ぎだろう。

シエルのいなくなった部屋で俺は思わずふぅ、と息をついてしまう。
普段なら絶対にシエルを前にしてこんなことはないというのに。


「シン…」
「ジャーファル…お前もか」

「今回ばかりは…というか1人にして大丈夫でしたかね…?」

「「………」」


あの性格なら男に誘われても女に誘われても断れなさそうだ。
つまり1人にしていると何が起こるか。


「…探してこよう」
「そうして下さい」


俺も厄介な人物を好きになったもんだ。
しかし男になってもあれ程までとは思わんだろう。

仕事ならジャーファルがそれなりに進めてくれるだろが…早くシエルを探すとしよう。
シエルのことだ、厄介なことに巻き込まれかねない。
アリババくん達ならまだしも変な輩に巻き込まれ……


「ねぇシエルちゃん!今日の夜飲みに行かない…?いいお店知ってるの」
「いえ、今はシエルくんって言ったほうがいいかしら…?」

『え、えっと…あの、その……』


「…………」


美女だ。美女がシエルを囲んでいる。
食客の内の者だろうか、シエルを元から知っていてこうも露骨に誘いに来るとは。
両サイドから両腕を絡め取られ胸でも押し付けられているのか顔が真っ赤なシエルは彼女たちにはさぞかし面白可愛く映っているのだろう。

しまった…俺が間に入れば更に酷くなるか、どうするか………?あれは…



「ごめんね〜!シエルちゃんは今日俺と飲み行く予定なんでね」


『あ…』
「「シャルルカン様!」」

「悪いけどまた今度にしてくれる?」
「は…はい!」
「シャルルカンさまがおっしゃるなら!」



シャルルカンと会話できたことが嬉しかったのだろうか、そう言って女性2人組は笑いながら去っていった。
俺の姿に気付いていたのか、もういいですよ王サマーなんて間の抜けた声が聞こえてきてシエルたちの前に姿を現したはいいが…。


「シャルルカン。その腰に回った手はなんだ」
「やだなー特に意味はないですよ」

『あ、あの…離してくれれば…嬉しいんですが…』

「ほれ見ろ」
「あっ」


今度は俺がシエルを奪い取り腕の中に収める。
いつもよりも骨ばった体はシエルが今男なのだということをまざまざと感じさせた。

しかしシャルルカンはにこーっと笑ったまま。
まさかとは思ったがこれには俺も口端を上げた。


「って事で、今夜は飲みですよ王サマ、シエルちゃん?」
『え』

「…しょうがないな」


そう言いながらも笑ってしまう俺はなんだかんだで無類の酒好きなのだから。
男でも女でも関係ない。
シエルが行くなら俺も行く、それだけだな。

あと絶対にシャルルカンと2人になんかさせない…いくらシエルが今は男だとしても。




シンドリア魔力暴走事件簿7

(ってことでさっさと仕事だ)
(お、王サマ一応ちゃんとやるんですねー)
(どうせジャーファルに怒られるだろうからな!)
(………それでいいんですかシンドバッドさん…!)

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