ウリエルは至って冷静にこの事態を頭に収めていた。
ザガンの迷宮内で育った迷宮生物。
その迷宮生物を作ったのはもちろん迷宮の支配者であるザガン。

魔法の命令式の複雑さは計り知れないものだ。
活路を見いだせないのかとダメもとで自分の中に宿るウリエル問いかけた結果、現在に至るわけだが。


『お前たち…ザガンに挑む気だな』
「当たり前だ!」


瞳には決意と怒りが見て取れる。
それだけザガンの行動が許せないのだろう。

人間の肩を持つ気など毛頭なかったであろうウリエルの登場にシエル自身も少し驚いていた。
自分の半身でアリババ達に語りかけるウリエルはなんとも不思議な感覚である。



『ジンは迷宮の支配者…ゆえに迷宮の中でジンは絶対に殺せないぞ』



「「「!」」」
「そんな!」

「…いや、殺しちゃダメだ」
「そうですね…ザガンにはトランの方々を戻してもらう必要があります」

『……お前たち4人にそんな余裕があるとは思えんが』


いくらマギであるアラジンにアモンを従えるアリババ。
ファナリスのモルジアナに魔力操作を駆使する白龍。


「エルさんは力を貸してくれないのかい?」
『…私はこの場に残る』
「え…!?」

『少々この命令式を解読できるか試してみよう』

「本当か!?」
『だが、私抜きでやれるのか?』


ウリエル…シエルはここに残ってトランの民を救出することを決めていた。
それがウリエルに望んだシエルの意思。

しかしその分ザガン討伐に向かうメンバーがひとり減ったということだ。
その上アモン・ザガンに並ぶジンの力はない。
ザガンを倒せる…というより納得させるのは容易ではないことに加え大きな戦力ダウン。
トランの民を助ける為の試行錯誤のためとは言え戦力の痛手になることは確実だろう。

それでも行くのか、ウリエルが降りかけた問いかけにアリババは拳を胸に叩きつけながら答えた。



「やれるやれないじゃねぇ…やるんだ!」



アリババ言葉にほう、とウリエルは口端を上げる。

―なるほどなかなか言う奴だ。
―こうでないとアモンの主は務まらん。


「ウリエルこそ、やれるのか?」

『忘れたのか。主には魔力の流れ、そしてルフが見えているのだぞ』
「あ…」

『それに今言ったろう。"やれるじゃなくてやる"んだろう?』

「!」


言ってのける彼女から溢れる自信にどこか救われる。
アラジンは、ウリエルは人間が嫌いだというのがどんどん信じられなくなってきていた。

なんでここまでしてくれるのか。
行動の裏に意図があったとしても結果的に彼女の嫌いな人間を助けているのでは、と思ったが今はそんなことを考えるのはやめた。


『あと、少し気になることがある』
「…?私、ですか?」

『あぁ。ちょっとそのまだ起きていない眷属器を見せてみろ』


気になること、と言ってウリエルが指名したのはモルジアナ。
一歩前に出て両腕を差し出す。

光る眷属器はいまだその力を発してはいない。
ウリエルはモルジアナの両手を取ってふむ、と声を漏らした。
何を意味するかわからない行動にモルジアナは困惑する。

片手でモルジアナの手を両手を取り、片手をその手に翳す


「……!?」


ウリエルの手が輝いたかと思い目を瞑った瞬間に光は収まっている。
今のは、と聞いたがウリエルは何も答えないまま、黙ってモルジアナの頭を撫でスッと瞳を閉じた。

瞬間シエルの意識が浮上して紫色の瞳を開いたシエルがパッと笑みを浮かべた。
表情の変化は著しく、皆が今はウリエルでなくシエルなのだと理解する。


『大丈夫。絶対に追いつくから…私は心配しないで先に行って?』
「しかしシエル殿…」

『私もトランの人たちを助けたいの。ダメかもしれなくても…やれることはやってみないと…』
「……わかった」
「アリババさん!」
「シエルとウリエルを信じろ!俺たちは…俺たちにしかできないことをしよう!」

「…そうだね」
「……」


本当は心配で堪らないが、いち早くトランの民を助けたいと言う思いは皆一緒なのだから。

2つに分かれたザガンの攻略。




「あら、あの方はここにお残りになるのね」




忍び寄る、魔の手。








黒く怪しく輝くは

(信じた道を突き進むという)
(皮肉な道)

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