幾多にも生えた無数の木の姿をした人間たち。
ザガンが言うにトランの民の人々だというそれは人として見る影もない。


「まあ見てなって。彼らには"苗木"になってもらってるのさ!」
『!』


その声と共に木と一体化した女性の貼り付けられている木の足元から根のようなツタが生えてきた。
何事かとその様子を見ていた一同。

しかし次の瞬間、地面から根をはやしたツタはと木の姿の女性のに根付いた。
木ノ実のようなものがムクムクと大きくなっていく。
木ノ実の成長する養分、行き着く先は根付いた人間。

大地の力を司るジン、ザガン。
その魔法で迷宮生物を操り、人間に寄生させる。
するとどうだろう、根が人間から魔力を吸い上げて…。
オギャアァァと声を上げて生まれた迷宮生物。

こうしてこの迷宮の中の迷宮生物は新たに生まれ、成長して行ったのだ。


『人を養分に…!?』
「大丈夫、死にゃしないよ〜!せいぜい役に立ってもらうさ。人間の薄汚い命…僕の"迷宮"の養分としてね……」


想像を絶する事態に絶句する。
人の命を弄ぶにも程があるだろう。

木にされた人々から聞こえるのは呻き声だけでなく嫌だ、痛い、などといった声も混じっている。
人としての自我があるのに、一体この人たちが何をしたというのだろうか。
ここまで何かをされる理由があったのだろうか。


「なんてひどいことを…!!」
「きっとあの村のこのお父さんとお母さんもこの中に…」


響き渡るザガンの笑い声。
心底楽しそうに笑う声は正気から考えれば気味が悪くもある。
耐え切れず肩を震わせるアリババ。


「……!!」
「だめだアリババくん無理に引く抜いちゃ!!」


耐え切れなくなってその人を助けようと、木から人を分離させまいとしたアリババにアラジンが待ったをかけた。
そうだ。そう簡単に助けられるわけがない。


「この人たちは"魔法"でしか元に戻せないって…ヤムさんが言ってた」
「"魔法"でしか!?」
『!魔法には人間を別のものに変化させてしまう恐ろしい技もある…!』

「うん。でもそれは複雑な"命令式"でできていて…僕にはわからない…」


つまりはどう言う意味か。

わかりやすく言おう、今のアリババやアラジン達に囚われたトランの人々を助けることはできない。
そしてその魔法を解くことができるのは…


『魔法が解けるのは…ザガン本人のみ…!!』

「その通り。流石はマギとウリエルの主だね〜」
「でも同じジンならウリエルにも何かわかるのでは…!」

「ざんね〜ん。この命令式は特別複雑にしてあるんだ。例えウリエルであっても無理だよ〜」
『……!!』


何もできない無力さを笑うかのように、下劣に響き渡る迷宮生物たちの笑い声が反響する。
同じジンにわざわざここまでするか、とシエルはザガンの卑劣さに舌打ちすら打ちたくなった。


『どうすれば…』

「……宝物庫に行こう!」


そして彼らはザガンと戦うことを決意する。
迷宮攻略なんて言っている場合ではない。
今すぐ、ザガンによるこんな負の連鎖は己たちの手で止めなければならないのだ。


「待ってろよザガン…俺たちがお前に…このふざけたマネを力ずくでやめさせてみせるからな!」

『(……あれ…?)』


片目に変な違和感、この感覚は。



『待て。お前たち』



「「「!」」」
「その声は…」

「ウリエル!」



ザガンの好きには、させない。





救いと決意は交わらない

(だからあいつはいけ好かない)
(まだ人間のほうがマシと思えるぐらいに)

_



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -