食事を済ませ、腹の準備…もとい体の準備と心の準備はできた。
そろそろ迷宮もだいぶ進んだだろう。終わりが見えてきてもいいのではないか。
目指す最奥はどこにあるのかはわからないものの道は一本道。道に迷うことはないだろう。


『あとどれぐらいなんだろう…』
「大丈夫だって!この"迷宮"はだいぶ親切だしな。宝物庫までの道はわかってるし…それに、迷宮生物たちも、"アモン"の時と何か違うな…」
「そうだねぇ」

『へぇ……』
「人間味があるっつうか…」
『あ、それはわかるかも。何かを生産してたりものを食べてたりとか…』
「そうですね」


樹木が生い茂っている、というのも要因の1つかもしれない。
無機質なものではなく命を感じさせる迷宮はむしろ心地よさすらも感じそうだ。
ただ、時に襲ってくる迷宮生物のせいでそんな悠長なことも言っていられないが。


「そういえばウリエルってのはどんな感じだったんだ?」


え、と声を漏らしあの白い空間を思い返す。
同時に蘇ったのは2度も顔を合わせた怪しい3人組のこと。
ゾクリという寒気が背中をせり上がっていったが今の話にそれはただ水を差すだけ。

シエルはそうだなーと口元に手を添えて口を開いた。


『ウリエルは…何もないところだった』

「何も…ない?」
『うん。上も下も右も左も色も形もない』
「それは…迷宮と言えるのですか?」

『シンドバッドさんが言うに…魂の迷宮、みたいな感じかな?』
「なるほど…」


白龍がまた何かを考え込み出す。
そんな白龍の額に寄った皺を人差し指で突ついてシエルは白龍の緊張をほぐした。

迷宮と言うものの差は攻略者の試し方も違うらしい。
話を聴けば聴くほどその差は明らかでありジン自身の性格も見て分かる。
帰って来れてよかったねというアラジンの言葉に、自分をまたこの世界に導いてくれたシンドバッドのことを思い出した。

右腕の金属器思いを馳せる。
絶対に、自分は彼のもとに帰るのだと。


「ザガンとは大違いだな」
『ザガンもかなり怖そうだよね…』
「怖いというか…なんというか」

「この迷宮なんてザガンの命令以外で襲って来ねーし…どこの"迷宮"もこうだったらいいんだろうにな…」




「やぁ〜気に入ってもらえて嬉しいよ〜!」




「!?」


やはりすべての会話が筒抜けな文まるでその場にいるかのような反応が天から聞こえてくる。
ただし、5人にはその声は聞くたびに今は虫唾が走りそうな嫌悪感を抱かせた。


「僕の"迷宮"はイカすだろう?気分がいいから君たちにはいいもの見せてあげるよ〜!」

「ザガンの声だわ…」
「あいつは気に食わねーけどな…」
「いいもの…?」


数刻前、ウリエルがイカしたではなくイカれたの間違いだろ、と言ったことに全力で同意したい。
全員険しい顔つきに変わった後に迷宮内の新たな部屋へと差し掛かる。
今までと同じ、崩れた瓦礫に巻き付いた蔦。


「そこの横穴に寄り道してごらんよ。君たちにとっても有益な情報があると思うよ」


小さなかごを持った小さな迷宮生物がその横穴に歩みを進めているのが見えた。

一体何があるというのだろう。
ザガンが言うからには有益な情報であることに間違いないだろうが、それが良い情報か、はわからない。
しかし行かなければ情報というもの自体も得られない。

腹を括って全員で顔を合わせる。
足を踏み入れた横道で見たものに、5人はそれぞれ恐怖を抱くこととなる。



「なっ……なんだこれ………!?」


人の形をした樹木。
そういえばそれで終わりだろうが、言い方を変えよう。

"樹木のような人間"なのだ。

まるで木と一体化してしまったような姿の人間の口に蜂蜜のようなものを流し込む迷宮生物。
蜂蜜を流し込まれているはずの口と思われる穴からウウゥウ…といううめき声が悲痛に聞こえる。




「その木は全部、トランの村の人間たちさ」




迷宮の向こうでザガンが笑っている気がして、シエルはそのザガンに恐怖を覚えた。






狂気は笑いと共に

(人の命を)
(狂気の沙汰に)

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