朝、起床。
むくりと体を起こし、シエルはまだ頭が覚醒しないまま両手を胸に当てる。
言うなれば絶壁。その感覚はシエルの頭を起こさせ、今これが現実だと把握する他なかった。
まさか自分が男になる日が来るとは。
ジャーファルから貰っていた男用の衣服に身を包みシエルはため息を一つ漏らす。
「シエル、起きてますか?」
『あ、はいどうぞ』
ピシッと服を正し中にジャーファルを招き入れた。
あの後から変わっていないシエルの様子を一目見て思わずジャーファルもため息を一つ。
「…夢じゃなかったんですね」
『あはは…そうみたいです』
「なんだかすいません。シエルには普通に働いてもらうことになりそうですが…」
『大丈夫ですよ、私はそんな重役じゃないですから』
役職的には普通以上重役未満にしても、存在的には重役だろう。しかし王や八人将には敵わない。
シエルは一日寝て体が戻らなくてもそのまま原因を周りに明かして働くつもりだった。
それに体が縮んだではなく男になっただけ。
身体能力的にも問題はないし仕事にも支障はない。
一応確認してみたがジンの発動もできる。本当にただ体の構造が変わっただけのようだ。
2人並んで廊下に出て最初にシンドバッドの元に向かった。
今日の仕事は昨日溜めた分もある為多いことだろう。
なのでシンドバッドが逃げないように監視役だっていると思われる。
男の姿であってもシエルはシエル。シンドバッドも文句はないだろう。
『!ヤムライハさん、おはようございます』
「あら、シエルちゃんにジャーファルさん。おはよう」
「おはようございます。また研究ですか?」
「はい。シエルちゃんが早く戻れるように」
向かいから歩いてきたヤムライハに朝の挨拶を交わし、シエルはその違和感に気付く。
いつもよりも元気がない、というか疲れたような表情をしている。
『…ヤムライハさん、ちゃんと寝てくださいね?クマできてます』
「あー……うん。ちょっと休もうかしら………」
『!』
フラリと傾いたヤムライハの肩をシエルはガシリと掴んだ。
普通ならヤムライハより背の低いシエルだが、今はヤムライハより一回り大きくなっている。
倒れそうな腰に手を回し、抱き留めるような形になった2人。
『大丈夫ですか?』
「え、えぇ…」
シエルが心配そうに顔を覗き込む。
その表情には女のヤムライハの胸をくすぐるものがあった。
にこりといつものシエルのようなほわりとした笑顔が降ってきて、そっと肩と腰に回していた手を放す。
物腰柔らかい雰囲気、気遣いのできる視野の広さ、容姿は幼いながらも美しく。
『ちゃんと寝てください、私まで心配になりますから』
あぁこの子が男になると天然でタラシになってしまうのかと。
下女たちにも事情を話す予定だったが、これはシンドバッドの隣に置いておけば下女たちが放っておかないだろうなぁと。
ジャーファルとヤムライハは異性の魅力についてまた考えることになるのだった。
シンドリア魔力暴発事件簿6
(?どうかしましたお二人共?)
(…いいえ、なんでもないです)
(…なんでもないわ)
(??)
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