「とりあえず、着替えましょうシエルちゃん!」
『着替え…ですか?』

「そうだな…流石にそのカッコじゃ目立つだろう」
「私ぐらいのサイズをちょっとアレンジしたら着れると思うから…今日は私非番でいいですか?」
「うむ。頼んだぞヤムライハ」


着替え作業となると男性陣はお役御免。
部屋を出る前にシンドバッドが一番にジャーファルに確保された。
これでシンドバッドは今から業務に追われることは確定だろう。

部屋にはモルジアナ、ヤムライハ、シエルの三人だけが残る。
女だから、ということでモルジアナもここに残ることにしたのだ。


『なんだかお仕事のお邪魔をしてしまってすいません…』
「いいのよ。たまにはこうして女の子と服の話だってしたいし…」
「私は特に何もないので」

「それに私は王みたいに仕事は溜めないから」
『…シンドバッド様、お仕事をお溜めになるんです…?』
「えぇ。だからさっきも首根っこ掴まれてたでしょ」
『……意外です』


女同士だからかシエルも気を張り詰めることなく話ができてほっとしていた。

ヤムライハが部屋から持ってきた大量の服と布。
それを部屋一面に広げて採寸をしたりしていく。


「じゃあまず採寸しましょうか。上に着ているそれ、脱いでもらっても大丈夫?」
『あ、はい』
「これ、面白い素材ですね……ふわふわしてます」


シエルの脱いだカーディガンに触れ、肌触りを確かめている。

そうか、こっちにはこんな素材ってないのかとまた1つ世界の相違を実感した。

メジャーを持ちシエルの体にそれを這わせる。
身長は大体一緒なため測ることもないのだろう。


「シエルちゃん、結構細いのね」
『そうですか…?』
「腰回りは腰紐…でサイズ調整した方がいいかしら」
「あ、それなら私の部屋にもありました」
「本当?それも持って来て貰っていい?」
「はい」


モルジアナも協力し、1から順にスタンスを立てていく。
次々に用意されていく服。
軽い着せ替え人形状態になりつつサイズや裾の調整をしていけば意外にも露出が多くなってきたことに少し困惑していた。
だがあまりにも厚着をしていると暑い。それは言い切れる。
しかしあまり露出はしたくない。ヤムライハのような恰好は正直もっての外だ。


『あの…あんまり露出は…』
「大丈夫、シエルちゃんに悪い虫が付かないようにちゃんと考えるわ」

「ヤムライハさん…虫って?」
「あの剣術バカみたいな奴よ」
『あはは…』


思わず苦笑いが漏れる。
シャルルカンとヤムライハが不仲であることはこの短時間で十分理解した。
モルジアナの持ってきた腰紐を巻いてみたり、試行錯誤が続く。

ある程度調整も終わり、全身のバランスも整って来てから。


「すいません、マスルールさんとの修業があるのでちょっと失礼します」
「あら、もうそんな時間?」
『あ……ありがとう、モルジアナちゃん』
「……いえ…」


申し訳なさそうな、でも嬉しそうな表情でモルジアナが部屋を後にした。


「って所で悪いんだけど…私もアラジン君の修業があるのよね…」
『修業……』


まずは修業という単語に世界観の相違を感じ、無知を改めて思い知る。
モルジアナも修業だと言っていた。
しかも先程の面子の中では飛び抜けての巨漢であるあのマスルールと。

"ルフ"や"マギ"、そしてシンドバッドたちが過剰に反応を示した"ジン"等のこともある。
これは勉強しなきゃ、と思うと同時に自分自身がこの人たちの日常の足を引く訳にはいかない。


『ヤムライハさん、行ってあげて下さい』
「え?でもシエルちゃんが…」
『あとは、着るだけなんで1人でも大丈夫です。アラジンくんきっと待ってると思いますから』


1人でもできることはきっとある。
誰かを頼っている時間はできるだけ少なくして自分でなんとかできることは自分でする。


「そう?じゃあお言葉に甘えようかしら…」
『はい』
「でも、明日からは私とジャーファルさんとでこっちの世界の知識の勉強をしてもらうから覚悟しててちょうだいね」
『はい!お願いします』


パタン

閉まったドアを見送り、腕には用意された服が抱えられている。
まずはこのややこしい構造の服を自分で着られるようになることから始めよう。
意気込んでバッと服を広げた。

が、見るからにややこしい。
正直どこをどうして着るものなのかが理解し辛い。


『えっと…ここに腕を通して…?あれ、腰紐が…』


さっきまで着せてもらってたのになぜ自分で着れないのか。
着れない筈がないのに着れない。

大丈夫さっきまで着れてたんだから…!

言い聞かせてもう一度服を広げ直して意気込んだ。



「おーいアラジンここいるのかー?」

ガチャ



『え…?』
「あ…?」

「『………』」



開かれた部屋と扉の先には唖然と棒立ちするアリババ。
服を広げていたシエルが着ているのは最低限の肌着のみ。

数秒後に響き渡った悲鳴に王宮が揺れたのは言うまでもない。







思いもよらぬ受難曲


(ご、ごめんアラジンがヤムライハさん探しに行ったからここかと思って…!)

(…!…!)
(大丈夫よシエルちゃん、ほら、落ち着いて…!)

(アリババくん…しばらくシエルには近付くなよ…)
(アリババさん…)
(も、モルジアナまで…!?)

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