しん、とした道すがら。
纏う空気は重く、誰も喋る気にもなれないらしい。
カツン、カツン、と階段を下りる音だけが虚しく反響する。
「"迷宮"もだいぶ進みましたね…」
「……」
喋ったとしても誰も返事を返さない。
もしかしたら返せないのかもしれない。
何かを言えば誰かを刺激してしまいそうな、そんな雰囲気すら感じた。
「おーい!君たち〜!」
『!』
やぁ、ザガンだよーと聞こえてきた気楽な声。
進めていた足を止め、ザガンの声に耳を傾ける。
シエルにしては聞きたくなんてなかったとすら思う声だ。
先程の部屋のあれはなんだったのか、皆がいなければ問い詰めることだろう。
「君たち絶好調だね〜
あの3本道をクリアできるなんてね〜
いや〜強くって感心しちゃったよ〜
特に君、まさかあの"夢見部屋"を突破するなんてねぇ。精神崩壊してもおかしくないと思ったのにな〜」
『…おかげさまで』
「でも1人だけ仲間はずれがいるよね〜
超頼りなくて足引っ張ってる奴」
誰かな〜なんて気楽なリズムに合わせて歌うザガン。
そう言った所が頭にくる要因の1つな訳なのだが。
「オイ、聞こえないフリするなよ」
仲間はずれ、という言葉はある意味差別に近いものを感じる。
頼りないこと、足を引っ張ること、それが一体なんの仲間はずれだというのだろう。
「お前だよ、顔に傷のお・ま・え!」
ビクリ、と白龍の体が揺れた。
この場に顔に傷がある者だなんて白龍しかいない。
シエルの中のザガンの評価はどんどん地に堕ちていく。
言いたいことはいろいろあるし聞きたいこともいろいろあった。
しかし今限り、これだけは言わせてもらおうではないか。
白龍の体が、ザガンの笑い声が聞こえるたび震えていた。
「君、さっきから助けられてばっかだね〜?みんなもほんと迷惑してるよ〜
君に彼らの仲間の資格なんてあるのかな〜?
君ってほんと、何もできない…弱虫だよね〜!」
ここにザガンがいたのならばシエルは迷わず矢の切っ先をザガンに向けていたことだろう。
本当に、彼は人の腸を煮えくり返らせるのが上手い。
「オイ、あんなの気にすんなよ。白龍?」
「!?」
『白龍くん…!?』
無言になった白龍に声をかけたアリババ。
しかしその返答はアリババにではなく、ザガンの言葉についてだった。
「わかってますよ〜そんなことは〜〜〜〜!!!!!」
らうわぁあぁぁ!!!とガックリ泣き崩れた白龍が泣きながら大声を上げて地に拳を叩きつける。
流れた大粒の涙は迷宮の地面に吸い込まれていき、まさか白龍がこんなに取り乱すと思ってもおらず、唖然と口を開いてしまった。
シエルも思わずぽかーんとして目を見開いた。
「なんだよぉ〜〜
俺だって頑張ってんだよぉ〜〜!!!
なのにできないんだよなんでだよぉ〜〜〜!!!!」
地に付けた拳に力を入れゆらりと起き上がる白龍。
思わぬ形で漏れた本音。
いつも冷静さで塗り固めていた仮面は剥がれ落ちた。
『あ……』
―「でも姉さん、あなたが心配だわ…だって本当に…」
―「貴方は…泣き虫なんだから」
シエルは夢見部屋で見据えた白龍の過去を思い出す。
姉と慕っている者にこう言われている幼き日の白龍がいたことを。
ありのままの君
(でも、そっちの方が君らしいかもしれない)
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ラストの白瑛さんの台詞は捏造です
申し訳ないですがつじつま合わせに…!
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