「…シエル…!…シエル…!!!」

『……あ…?…りばばくん…?』

「エルさん!」
「シエルさん!」


ぼやけた視界には黒いルフ、ではなく見知った3人の仲間の顔。


『!!!』


ガバっと身を上げたそこに確かに彼らはいて、右手で左手の腕を抓ってみた。
痛みを感じる辺りに現実味を感じ、もう夢ではないことを思い知る。

いや、あの部屋の中においてどこまでが夢だったのかはもうわからない。

ドレスを身に纏った彼女たちがあわられたのは夢だったのだろうか。
それとも自分が夢と思いたい現実か。
自分がいつどうやって試練を抜けたのかは覚えていない。


「大丈夫か!?俺たちが着いた時はもうここで倒れてたけど…ザガンに変なことされてないか!?」
『うん…ちょっといろいろあったけど…大丈夫。皆は…!?』


自分の隣で横になっている白龍に気付きハッとする。
まさかと目を見開いたところで大丈夫だ、意識を失っているだけだとアリババ。
それを聞いてホッとしたのも束の間、大丈夫とは言え体は傷だらけ。

強靭な体を持っているとは言えモルジアナも普通の人間であるし、意識を失っている白龍は勿論のこと心配になる。


『……モルちゃん、もしかして白龍くん魔力操作か何か使った…?』
「はい…私たち2人はジンがいないので…白龍さんにもかなり力を酷使させてしまい……」

『そっか…』


額に乗せていた濡れたタオルの上にシエルは手を置いた。
少し熱を発しているのかタオルは乾いてきてしまっている。

シエルはスッと目を閉じて添えた手に力を集中させた。
羽ばたく白いルフ。
それは白龍に吸い込まれるように溶けていく。


「!」
「エルさんの魔力が…」

『……これも魔力操作の一種だよ、私の魔力を白龍くんに分けてるの…』

「そんなこともできるんですね……」
『ちょっと難しいんだけどね』


言いながらも卒なくやってのけるのがシエルらしいというかなんというか。
そのままシエルがタオルに水を浸し直そうと思った時、意識のない白龍の手がシエルの手を掴んだ。


「母上…姉上…」
『!』

「おにいさん、うなされてる…?」
『白龍くん…?』


「白龍!!」


ビクッと体を震わせながら目を覚ました白龍。
反動でぎゅっと握られたシエルの手には驚くぐらいに汗が滲んでいた。


「大丈夫か!?うなされてたぞ」


状況判断のできていない白龍にアラジンは言う。


「もう、2本道の試練は抜けたところだよ。おにいさんはモルさんが運んでくれたんだよ」


モルジアナが運んでくれた、という言葉が指し示す誰かに助けられてしまったという事実。
ここに至るまでの経緯は知りたかったが、知りたくなかった。

己の無力さの痛感。
握っていた手がシエルの手を掴んでいることに気付き白龍は慌てて手を離した。


「す、すいません…」
『うん、それはいいんだけど…大丈夫…?』

「…はい」


今白龍がうなされていたのは確実にシエルが知っている内容の悪夢だろう。

しかし白龍は何も言わない。
誰にも言えない、と言ったほうがいいのか。
シエルが先程の部屋で何を見てしまったのかを知らない彼らには、今シエルがどんな気持ちかわからないのだから。

いや、人の気持ちなんて誰にもわかる訳がないのだから分からなくて当然といえば当然。


「大丈夫かよ…白龍の奴……」


フラリと立ち上がった白龍の背中にのし掛かったものは計り知れず想像もできなかった。


『白龍くん…』


それを知ってしまった今、シエルが白龍にできることとは一体何なのだろう。





手の平から伝わる焦燥

(痛みすらも分け合うために)

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