ギィィィ



『……』


先程までの部屋と違い、孤独で踏み出した一歩。
目の前に現れた部屋には迷宮生物の賑やかさもなければ花もない。
まさに真っ白な空間。
しかしシエルにはその部屋に類似するものを知っていた。


『…これが…"ウリエルの為に用意された部屋"……か』


なるほど、とシエルは何もない辺りを見回す。
そう。この部屋はウリエルが誘った夢の中の空間に似ている。

ザガンにしては粋な図らい。
やはり彼も馬鹿ではないらしい。


バタン

『!』


背後で閉まったドアは光となって消えていった。
後戻りはさせないと、そういうことなのだろう。

シエルの頬を変な汗が一筋流れていく。


『…!ダメダメ!皆ちゃんと進んでるんだから…弱音なんか吐いてられないっ…!』


汗の流れた頬をぱちん、と叩く。
キッと真っ白で何も見えない前を見据えればズキッと一瞬頭に鈍い痛みが走った。


『……?』

―「主、代われ」
『え?』

―「いいから、早く!」
『なんで…?…っ!!!!』


ウリエルの少し慌てた声が聞こえたが
頭に響く声と迷宮内に響く声が反響してガンガンしてくる。


―「残念、この部屋では君の力は使えないんだ〜」
―「ザガン…!」


まるで砂嵐のようにザーザーと映像が頭の中に移り出す。

登場人物は誰だ。
自分はこの姿を知っている。


―「この部屋は君の…いや、君の主のために用意した"夢見部屋"さ」

『―――っ!!!!!』








「白龍…」
「白龍…」


「使命を果たせ、戦い抜くと誓え!」


「お前がやるんだ…」
「お前がやるんだ」
「お前がやるんだ…」


「お前が」
「お前が」
「お前が!!!」


「白龍…」
「白龍」


「しっかりしなさい!」
「あなたがちゃんとしなくてはだめなの」

「でも姉さん、あなたが心配だわ…だって本当に…」

「貴方は…」




渦巻く炎の中。
自分に伸し掛かる重圧と言葉は今でも炎以上に渦巻いている。


「僕たちを殺そうとしたのは母上だって…」

「嘘ですよね…?」


お前がやらなければ誰がやるのだ。
幼き頃に刻みつけられた火傷の跡は今でも自分にそう語りかけてくるようで。


「真実よ」
「と言ったらあなたはどうするのですか?」

「……!?」

「白瑛に言う?それともこの手で私を殺しますか?」


取られた自分の手は愛した母親の手の中でゆらゆらと揺れる。
されるがまま、今までもそうだったし、今もそのままで。



「ほら、何もできませんね?」



「あなたは今まで通りいい子でいればいいのよ」



「白龍」



何も知らない愛すべき姉。
優しい笑顔の裏にある腐った人の心の内を知ってしまった。

己の国を魔の国と呼ぶようになったのはいつからだっただろう。
愛した血の繋がった母をアル・サーメンの魔女と称するようになったのはいつからだっただろう。

全ては狂わされてた。
手のひらの上で踊らされていた。
重く苦しく苦い過去の記憶が全て流れ込む。



―「……さぁ、どう出る?ウリエルの主」



ザガンが呟いたことを知る者はいない。






巡る悪夢の夢見

(悪夢はここから始まった)

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