静けさを取り戻した迷宮。
敵を蹴散らしてしまえばこちらのものだ。
丸焦げになった迷宮生物をアラジンがつつく。
すると一本道を導く次の扉に向かって足場が形どられていく。
『あ、足場が……』
こっちに進めというザガンの言伝だろう。
「これで進めますね」
『うん!あ、白龍くんさっきはごめんね…突然手離しちゃって…』
「いえ…俺の力が及ばなかったばかりに…すいませんでした」
『そ、そんなに謝らなくても…!私もちょっと重さに耐えられなかったっていうかなんていうか…!』
痛いほどに自分の武器を握り締め頭を下げる白龍。
そんな白龍にシエルも思いっきり頭を下げた。
2人向かい合って頭を下げる姿はそれなりに面白いものだったのではないか。
なに誤りあってんだよ、と笑うアリババに2人頭を上げる。
とにかく先に進まなければ話は始まらない。
次の扉をくぐり、長い階段を下りていった。
さっきの技はなんだったんだとアラジンに興奮して聞き出したアリババと、胸を張ってそれに応えるアラジン。
その様子は緊張しきった迷宮内には不釣合でありながら、彼らがありのままでいることを示している。
「そうだ!シエルのあれ!」
『あれ?』
「そう!あの光の翼!あれもどうなってんだ?」
迷宮に入った時もシエルはあの光の翼を身に纏っていたが、あの時シエルはウリエルであったかもしれない。
故に聞くことのできなかったのだが、アラジンも気になっていたのかじっとシエルを見つめている。
『あれは光魔法と浮遊魔法の命令式を組み合わせた私オリジナルの魔法だよ』
「そんな複雑な命令式をそれを金属器も発動させて使えるなんて…やっぱりエルさんは凄いなぁ……」
「ってか、まず本来魔法使いは金属器使いになれないもんな。そう考えるとやっぱシエルってスゲー」
『そ、そんなことないよ!?』
いまだ褒められることには慣れない。
「皆さんにも…一つお願いが…」
「?なんだ?」
「自分の力不足は思い知りました…そのせいで、皆さんにも何度も助けて頂き申し訳なくも感謝しています…」
しかし、と言葉を濁し白龍は武器を握る。
その剣幕は少し暗く、重い。
「皆さんの力を借りずに…"迷宮攻略"をさせてもらえませんか?」
違和感のようにシエルの中に巡る血が脈打つ感覚。
―彼女が、何かを言おうとしている…?
シエルが何、と思うよりも先にアリババが白龍に聞き返した。
「今後は何があっても助けの手を差し伸べていただかなくて結構です。」
「自分の力だけで"迷宮"を切り抜けたいのです!それで死んでも捨て置いてください」
『…白龍くん?』
「お前…」
何を言っているのだろう?
シエルには一瞬白龍の言っていることが理解できなかった。
全員が唖然と白龍を見つめている。
白龍自身は自分で何を言っているのかがわかってはいるが受け止めきれてはいないような。
そんな白龍に笑顔を向けたのはアリババだった。
「そんなに遠慮すんなよ!」
真面目に考えすぎるのも考えものだぜ、と笑う。
「助け合うのもいいもんだと思うぜ。だから何も気にせず頼ってくれていいんだぜ!」
アリババの言葉にピクッと反応した白龍。
助け合う、ということが彼にとって何を意味するのだろう。
価値観は人それぞれとは言えど、白龍には引っかかる要因がいくつもあった。
助け合うことを理解し、受け止め、良しとすること。
それが導き出す答えは間違っていることなのか。
「何も……気にせずに……?」
バシッ
「そんなこと…していいはずがないでしょう!?」
弾かれたアリババの手。
感情が露になった白龍の声は感情的であった。
「俺は…仮にも一国の皇子で…他人の助けに甘んじていい立場にありません。
ザガンに認められて力を得て…やらなければならぬことがあります」
ねぇ、それが復讐だって言うの?
死んで、捨て置いて、それでもやらなければならないことっていうのは誰かの命を奪う行為だというのか。
差し出された手を拒む理由がそんなことで良いわけがない。
アリババもその訳を知っている。
自分が差し出された手を拒んだ結果、何を生んでしまったのかを。
シエルは白龍との距離を詰め、グッと歯を食いしばった。
「シエル殿…?」
『……』
パシッ
こんな形で誰かに手を上げるだなんて、思いもよらなかった。
知らぬ間に、自分の瞳から涙が流れているなんて知らずに。
この手を拒まないで
(ねぇお願いだから)
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