「オマエら潰すペッシャンコォォォ!!」
「!?こいつら!?」
聞こえてきた歌。
先程の愛らしさはどこに消えたのか、凶暴化した迷宮生物たち。
ザガンが出てくる前に、シエルがまた不思議な歌を歌った時と似たような現象が今そこでは起こっている。
対面してわかったザガンの性格からして、ここまでくると事態を繋げ合わせるのは容易であった。
「やっぱり!あの白い生物が暴れ出した時と同じだわ!」
「きっとザガンの歌声が…迷宮生物たちを凶暴化させているんだ!」
凶暴化した迷宮生物たちは一斉に襲ってくる。
先程のように自分の力でどうにかできないか、とシエルは思ったが今度が頭に歌が浮かんでこない。
なんでこんな時に、と思った瞬間他の4人には聞こえないであろう直接シエルの頭に響く声がした。
―「次はさっきみたいにはさせないよ」
『(ザガン…!?)』
―「君の歌は僕の可愛いウサちゃんたちには聞こえない」
『……っもう!!!』
殺生なんてしたくなかった。
そんな甘いことも言ってられずシエルは武器を構える。
『(私の役立たず…!)』
ないと思っていた兎の顔面はパックリと割れ、剥き出しになった目玉が5人を捉える。
兎たちの魔力で足場が操られていたのか、足場の確保すらままならず。
勢いよく接触し合う足場の衝撃。
確保できない足場は戦闘に向いていないどころか、まともに先に進むこともできない。
「ならば…全て仕留めて動きを止める!!」
槍を振りかぶり、長いリーチを生かし兎に振りかぶった白龍の槍。
いけるかと全員が白龍に視線を送った、が
バチバチィ
「(はじかれる!?)」
「無駄無駄。その子達は魔法使いなんだよ!浮遊魔法と"防壁魔法"が得意技さ!!」
「うわっ!!」
『白龍くん!!』
嘲笑うようなザガンの声が迷宮内に響き渡る。
声と共にバチッと音を立てて槍を弾かれた反動で、白龍がぐらりと足場から足を踏み外した。
ザガンは迷宮生物たちが魔法を使えることを嬉々としていたが、魔法が使えるのは迷宮生物だけではない。
『大丈夫!?』
「シエル殿…!」
魔力を集中させ、光がシエルを包んだ。
シエルの背中に光る光の羽は魔法のそれであり、浮遊魔法も組み込んだ複雑な命令式を使う魔法だ。
ギュン、と落下する白龍を抱え再び足場に浮上する。
「あのっ…女性が男を抱えるなど…今すぐ降ろし…」
『ちょっと待って舌噛むよ!!』
「っわ…!!」
足場がシエルと白龍目掛けて飛んできて、頭上で足場同士がぶつかり合う音が響く。
「"防壁魔法"…?ならば……!」
防壁魔法に突き刺したアモンの剣は壁を破り、炎はその身を焼き尽くしていく。
魔力の力が効く、ということが収穫ではあったがアモンの剣では如何せんリーチが短く、飛び回る迷宮生物たちには届かない。
モルジアナは魔法が使えず、八方塞がりだ。
「なーんだ…そんな単調な攻撃じゃあ…自由に羽ばたく僕のウサギちゃんたちには勝てないよ!」
確かにその上動きは早く肉眼で動きを追い、攻撃をすることは困難に近い。
しかしシエルとアラジンはザガンの言葉に笑みを浮かべた。
『なら、それを上回る速さで貫けばいいね』
ごめんね白龍くん、と呟いた直後モルちゃん!!と叫び白龍を抱えていた手を離す。
あまりにも突然なことに叫びながら落下する白龍を受け止めるモルジアナ。
自由になったシエルの宙を舞いながら照準を定めた。
『自由に羽ばたけるのはウサギちゃんだけじゃないよ』
負けじとアラジンが僕だって、と浮かべた無数の火球。
まるで生き物のように動き回る多数の火球を制御するアラジンは"マギ"としての驚異であっただろう。
「アリババくん!」
「おう!」
アラジンの火球がアリババの剣に宿る。
力の宿ったアモンの剣が振りかぶり、シエルが光の矢を構えたのはほぼ同時。
2つの力に切り裂かれた迷宮生物のけたたましい悲鳴が迷宮に響き渡り、そして辺りは再び静寂に包まれるのだった。
力を振るう場所
(私だって強くなってるんですよ、って)
(あの人に言いに行きたいだなんて思ってしまうバカな私)
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