1つの波乱が2つの波乱を呼ぶような事情説明はこれにて閉廷。
シンドバッドはここぞとばかりに楽しそうな笑みを浮かべて言い放つ。
「ならば信頼の第一歩。自己紹介から始めようじゃないか!」
『え…?』
「シン…仕事は「そんなことよりも親睦を深める方が大切だろう!これからはずっと一緒な訳だしな!」
もうダメだ今日の仕事は進まないな。
ジャーファルはこの一瞬でそれを察した。
シエルという恰好の逃げ道ができてしまった以上彼はそれにしがみ付いてでも仕事はしないだろう。
タダでさえ溜まる業務。
後にやらなければいけないのはシンドバッド自身だというのに。
彼は気付いていないのだろうか。
まぁわかっていて目を背けているのだと思うが。
「…今日だけですよ」
「よし!じゃあシエル!」
『え、えっと…シエル…です。何を言ったらいいかわからないんですけど、その、よろしくお願いしま…すっ!?』
ぺこりと頭を下げる…と、ガン、と景気のいい音を立てて何かとシエルの頭がぶつかった。
下に何かあったか、と頭を押さえつつ目を開けるとドアップになった人の顔。
慌てて身を引いてぶつかった人物を確認する。
『ご、ごめんねアラジンくん!』
「ううん大丈夫だよ。エルさんこそ大丈夫?」
『え?……エルさん…って』
「うん。シエル、だからエルさんダメかい?」
『うっ、ううん!全然大丈夫!』
ならよかった、とシエルの膝に飛び込んだアラジン。
その一連の行動に動揺を隠せない。
あだ名だなんて、膝の上に誰かを乗せるだなんて、と。
「アラジンは大丈夫なんだな」
『あ…はい男の人でも、子供は大丈夫みたい、です』
「羨ましい…」
「何か言ったかシャルルカン」
「いーえ何も」
子供が大丈夫なのは新たな情報の一つであろう。
小さなことでも知っていく、ということがこの自己紹介ね意味なのだから。
「んーじゃ次!俺はアリババ・サルージャ。シエルと同じで今は食客としてここにいる。ちなみにアラジンとこっちのモルジアナもな」
「…モルジアナ…です。」
『アリババさんに、モルジアナちゃん、ですね』
モルジアナがシエルに近付き手を差し出す。
一瞬その意味がわからなかったシエルだったが、それを悟ったのかモルジアナが言葉を付け加えた。
「……友好の証には握手をするのだと聞きました」
『あ……』
「よろしく、お願いします」
少し照れた様なモルジアナに、シエルも思わず照れながら手を握った。
伝わる体温が実に心地好く、また涙すら出そうになる。
人の繋がりとはこれ程までに暖かいものなのか、と。
離した手の平を見つめ、シエルは思わず口端が緩む。
「次はこちらの紹介だな。残念ながら八人将全員集合とはいかなかったか」
「任務中ならしょうがないですね。私はジャーファルと申します」
「…マスルール」
「おいおい味気ねーな。シエルちゃん、俺はシャルルカン!よろしく〜」
「私はヤムライハよ。この剣術バカになにかされそうになったらすぐに言ってね!」
『え、はい…?』
まくし立てる様に紹介が廻った唯一の女性、ヤムライハがシエルの両肩を掴み、シャルルカンに向けて威嚇の目線を向ける。
気迫に負けて思わずはいと言ってしまったがこれは無礼に当たるんじゃないかと思ったがそっちを咎めるよりシャルルカンはヤムライハに噛み付いた。
「おい魔法バカ…そりゃどーゆーことだ…?」
「まんまの意味よ。こんなこともわからなくなってるならアンタ本当にバカね」
『…あ、あの…』
「ほら、2人共。シエルが困ってますよ」
ジャーファルがパン、と手を叩き敵意をむき出しにしていた2人が我に返る。
ごめんなさいねとヤムライハ。
女性という特権を使い頭を撫でればどこか羨ましそうな顔をする者が数名。
綻んだ表情が自然と浮かぶ。
明るい雰囲気というのはここまで心まで変えてしまうんだ、と胸が躍った。
「じゃあ最後に、俺はシンドバッド。この国の王でありこれからは君の家族だ!」
家族、家族。
その言葉を何度も胸に噛みしめてシエルは思いっきり笑った。
段階を踏む変奏曲
(八人将の残りは追って紹介しよう)
(八人…ってことは後4人ですか…?)
(大丈夫ですよ。全員特徴がありすぎてすぐ覚えられますから)
(逆に覚えない方が器用かもな…)
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