2人の巨大なジンが迷宮の空間にひしめき合う。
そこに違和感なく佇むシエルが現れたアモンへ振り向く。
アモンの選んだ主、アリババの元にツカツカと歩いていくとアリババの構えていた光を放つ八芳星の模様のついた短剣に触れた。


『アモン…そっちの少年の魔力を使って出てきたか』
「ザガンに1つ確認せにゃならんでの…」
『…それではその先少年が不便だろう。私の魔力を使え』

「うわっ…!?」


先程白龍に触れた時に放ったのと同じ光が輝き、アリババは思わず一瞬瞳を閉じた。
魔力を使うということは自分の中のエネルギーを使うようなものなので、疲労が蓄積してく。
アモンに魔力を与えている、という感覚がスッと抜け逆に力が湧いてきたように感じる。

光が収まっても、目の前に立っているのはシエルで。
そう言ったありえないことをしてしまうのを目の当たりにすると、やはりシエルは同じジンの中でも少し違う力を持っているのだと改めて思ってしまう。
また2人のジンに向かっていく背中は、年端もいかない少女だというのに。


「おぉ、すまんのう。しかしお前の魔力は大丈夫か?」
『私を侮るな、問題ない。迷宮内はルフ濃度が濃いしな』
「チッ…よりによってアモンかよ…口うるせぇクソジジィが…」
『お前も十分口うるさいぞ』

「「「(それは言えてる…)」」」


今までのやりとりからそんなことまで考えつつ。
考えられる余裕があるのはウリエルの器がシエルだからだろうか。

そしてアモンはわざわざ姿を現してまでザガン確認に来た理由、重い口を開いた。


「…ザガンよ……お主"王"を選ばないつもりじゃな?」

「!!?」
「フッ…そうさ!僕は人間が大〜っ嫌いなんだ!だから人間の王を選び、その上、あの醜く人間どもが憎しみ合うあちらの世界に行くなんて…」
『……』

「ウリエルもそう思うだろう?だって君は僕と同じで人が嫌いなんだから」


シエルに宿る前から、シンドバッドからウリエルのことは聞いていた。

人を嫌い、誰とも干渉することを嫌う。
実際にそのせいでシエルは危うく迷宮から帰って来れない所だったということは、アラジン・アリババ・モルジアナは知っている。
あの時はアラジンとシンドバッドがいたおかげでなんとかなったものの、もしかするとあのままシエルが迷宮攻略できなかったかもしれない。

ザガンの問いに、ウリエルは何も語らなかった。


「それより僕は、僕の作ったこの無垢でイカした迷宮生物たちと…一生ここで暮らすんだ。
"迷宮"の周りをウロつく目障りな人間をイジめて暇をつぶしながらね!」

「こ…こいつ…!」
「…」


ザガンの手の中で泣きじゃくるトランの少女。
助けを求める声は震え、言動の非道さからは狂気すら感じる。


「そうだウリエル!僕の迷宮で一緒に暮らさないかい?きっと楽しいはずだよ!」
「!!?」


大きな手を差し出し、誘惑の言葉はウリエルに放たれたもの。
人間が嫌いなジン。
しかし体はシエルのもの。
もしここでウリエルがザガンの手を取ってしまえば、必然的にシエルは迷宮に姿を留めるということに。


「おっと!」

『……断る。私の主はそんなこと望んではいない』


そんな周りの考えを一刀両断した彼女の光の矢がザガンの手を掠る。
牽制ではあったが明らかに殺意を持った一矢。

しかしザガンに怒りの矢を向けたのは1人ではなかった。


『…少年』
「ん〜…?」

「その娘を放せ!!」


じっと白龍を見つめたザガン。
アモンとウリエルはその様子をまた観察していた。

いけ好かない表情のザガンがにっこりと笑う。


「いいよ〜」


「!?」
『ザガン!!』

「"宝物庫"まで来られたらね〜!一本道を用意してやるよ!」

『まったく…!』


直後、ザガンは高らかに宣言して飛び立った。
その跡にはザガンの顔に付けられていた仮面の装飾がされた扉が残され、ウリエルの再び放った光の矢はザガンに当たる前に溶けるように消えた。

ザガンの飛び立った軌跡が道のように輝き、結局ザガンを止めることも少女を助けることもできず、ウリエルは小さな舌打ちを1つ。



『だからいけ好かないんだ…ヒトも、ジンも』





喜ばざる影

(だから私は何も信じたくないというのに)

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