「では、話を纏めさせてもらうぞ」


いい加減騒がしくなったあの場を粛清し、話は始まった。
本来は騒がしくなる前に始めるべきだったのだが面子が面子だ。仕方ない。


「まずはシエル」
『はっ、はい』

「キミは本当にこっちに来た記憶はないし、我が国シンドリアやルフ等の言葉は聞いたことがない」
『はい…気が付いたらあそこにいた…という感じで、シンドリアなんて国は聞いたことがありませんでしたし…ルフ、ジンと言うものについてはさっぱり』


聞く言葉、言う言葉を一つ一つしっかり噛み締めながらシエルは返答をする。
聞き覚えのない単語に話を聞けば聞くほどわからなくなってきてしまった。
なんとか自分なりの解釈を加えて整理。
混乱だけを起こしてこれ以上の迷惑はかけられない。
冷静に、質問にはできるだけ素直に真実だけ答えるように心掛けた。


「信じ難いですね…ルフがない国…いや、ルフがない世界とは…」
「我々の知らない世界、実に興味深い」
「そうね。魔法でも解明しきれない世界だわ」
「…こっちに来る前兆とかもなかったんですか?」『前兆…?』


言われて最終に浮かんだのはさっきの夢。
自分を待っていた、と告げるあの夢を。


『夢を、見ました』
「夢?」

『前兆…とは違うかも知れませんが、昨日気を失ってから見た夢が』
「どんな夢なんだい?」
『天使が…私を待っていたと』

「「「「「天使?」」」」」

『はい。綺麗な羽の生えた天使で確か"ウリエル"と言っていました』

「「「!!」」」


ウリエルの語に過剰に反応を示したのはシンドリアの一向だった。
シンドバッドは顎に手を当て、何かを考えている。
その反応にアラジン達の中には疑問が生まれるばかりだがそれ以上にシエルは慌てた。
何かいけないことを言ったのではないか、身を縮こませて次の言葉を待つ。


「そのウリエルは…自分を"ジン"と言ってなかったか?」

「「「!」」」
『あ…はい、確か…慈愛と悲哀、そして覚悟より作られたジンだと』


全員の顔色が変わった。
"ジン"というものを理解していないシエルにとっては顔色の変わり具合が尋常ではないことに自分がいったい何を見たのかが不安でしょうがない。
ざわつきだした一同。混乱を起こしそうなシエル。


「あぁすまない。心配しなくとも悪いわけではないよ」
『はぁ……』
「ジンの説明の前に…いろいろと新たな説明をしなければいけないな」
「シエルがウリエルに魅入られたとなると…」
「どうなっても知識と力が必要だろうな…」

『?…?』
「ち、ちょっと待った!俺らもそのウリエルってジンは知らねーぞ!?大体そんなジン聞いたことも…」
「それも追々説明しよう。それよりもシエルの今後についてだ」


今後、その言葉に今度はシエルが過剰に反応を示す番だった。
まさかここに置いてもらえるだなんて都合のいいことは思っていない。
自分で生きて行く為、どうするべきなのか。
答えを導き出すにはまだシエルは幼すぎた。
ギュッと口を噤み、拳を握る。


「シエルには食客としてここにいて貰いたい」

『……え…?』

「…言うと思ってましたよ」
「お、流石だなジャーファル」


まさかの申し出に口を開いたままポカンとしてしまったシエル。
部屋は?既にアラジンたちの隣を。早いな。
右から左に飛び交う会話について行けなくなり慌てて口を挟む。


『ちょ、ちょっと待ってください!』
「ん?どうした?大丈夫だ、隣はアラジンとモルジアナとアリババくんの部屋だぞ?」
『えっと…そうじゃなくてですね…!』


言いたいことがなかなか言葉にならず言葉が詰まる。
歯切れの悪い言葉が口から漏れるだけで会話として成立しない。
どうしよう、と気持ちだけが勢いだ。


「王とジャーファルさんの話が早いからついけてけてないみたいだけど」
「ゆっくりでいいんだぜ?」
「誰も怒ったりしないですよ」

『あ…』


言葉の光が胸に沁みる。
胸に手を当て、震えそうになる一字一句を言葉にして紡いていく。


『私なんかが…ここにいていいんですか…?』


顔を上げて、できるだけ目を合わせて。
紡いだ言葉に、逆にまるで豆鉄砲くらったような表情をするシンドバッド。

そしてシエルの不安などすべてを吹き飛ばすような笑顔が返ってきた。



「なにを言っている。ここに来た時点で君は俺たちの家族だ!」

『かぞく…』



太陽を思わず向いてしまう向日葵のように。
シンドバッドの笑顔に胸の氷が解けるのを感じる。
家族だなんて呼べる人今までいなかった。
暴力を振るうだけの最低な奴しか。正直親とも呼びたくないような人間。
いや、家族とは呼べないであろう人間しかいない。

でも彼は、シンドバッドは違う。
余所から来たこんな自分ですら家族だと呼んでくれた。


「!シエル…」
『私、頑張ります』


シンドバッドの服の裾を引っ張る。
今のシエルにはこれが近付く限界だったが進歩には変わりないのだ。


『この世界のこと…!もっと教えてくださいっ!いつか…いつか必ず…その恩義に報いる為にも……!』




大きな一歩の追走曲

(勿論さ!)
(なら、その役は私とヤムライハが受け持ちましょう)
(…俺は?)
(貴方はいつも通りの仕事をこなして貰います)
(どんまい王サマ)

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