予想通り、隣に寝ている小さなシンドバッドに目を覚ましたシエルは目を見開いた。
まさか誰かに見られていないかと慌てて辺りを見渡し、シンドバッドがかけてくれたのであろうシーツでシンドバッドを隠しながら自室に急ぐ。
その間もシエルの腕の中ですやすやと眠り続けたシンドバッド。
数分後、力の衰えないジャーファルにシバかれしこたま叱られたのだが。
『ま、まぁ誰にもバレてないみたいだしいいじゃないですか…』
「よくないです!これがもし誰かに知れていたら…!」
ジャーファルの気持ちはよくわかる。
仮にも王なのだから常に命を狙われているかもしれない。
そこに今体が小さくなっていることなど知れたら恰好の餌になってしまう。
わかってはいる。自覚もしている。
しかし緊張感の足りないシンドバッド。
まぁ家臣としては叱りたくもなるのだろう。
『はい。ジャーファルさん、そこまでですっ』
「ちょっ…!」
あまり部屋で騒がれたくないというのと、ちょっとシンドバッドが可哀想になってきたのと。
そして何より、今の自分の力でジャーファルを止められること。
シエルは小さな体の脇の下に手を入れヒョイッとジャーファルを抱え上げた。
『無事だったんだし、いいじゃないですか。ね?』
「…シエル…私まで子供扱いしてませんか?」
『えへへ…してます』
「……まったく」
へらっと笑うシエルに怒る気も失せたらしい。
ジャーファルの怒気が衰退したのを確認し、シエルはジャーファルをベッドに下ろす。
「止めてもらえてよかったですね王サマー」
「なんだ…この若干イラっとするのは」
「小さくなっても嫉妬は一人前ですねっと。そろそろ効果が切れると思うわ!」
『本当ですか!?』
自分でかけた魔法なら自分で感覚がわかるのだろう。
ヤムライハが言うには間違いない。
全員が心の準備をし、パァっと皆が光を放ったと思ったら、ボンと何かが爆発するような音がした。
『これで元通りですね……………へっ!?』
「どうしたシエル……!?」
少しずつ煙のようなものが晴れていき、奇声を上げたシエルの方を見やる。
そしてまず第一に目に入ったのは、腰ほどまである長いシエルの髪が短くなっていたことだ。
しかし変わったのはそんなことだけではない。
華奢だった肩幅は少し広がり、背も少し高くなっている。
そしてなにより
ぺたっ
『………嘘だ』
現実から逃避しようと口から出た声は低く、胸に添えた手が虚しく硬化する。
「アラジン」
「なんだいおじさん」
「…ちょっとシエルの胸に飛び込んでみろ。俺が許す」
「……」
固まっているシエルに恐る恐る近付き、アラジンは言葉の通りシエルの胸に飛び込んだ。
いつもなら悦に入ったような至極の表情に花を咲かせるアラジンが、今は涙ぐんでいる。
「エルさんの胸が…柔らかい胸が…ない…」
「シエルちゃんが…」
『お…男に…なっちゃいました……』
シンドリア魔力暴発事件簿5
(一難去ってまた一難)
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魔力暴発シリーズまだまだ続きます^^^^
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