―さぁ狂い踊れ迷宮の華たちよ
―我が迷宮の中で、この狂歌に乗せて荒れ狂うがいい
『…!』
白いぬいぐるみの巨人のような迷宮生物。
ハチミツちょうだい?と無機質な目が5人を射抜いた瞬間唖然と立ち尽くしていたが不意に聞こえてきた歌にシエルは一番に正気を取り戻しその歌の元凶を探した。
「今のかすかに…上の方で声が?」
『モルちゃんも聞こえた……?』
「?聞こえなかったよ」
『嘘…?あんなにハッキリ聞こえるのに…』
「マジで?俺なんも聞こえなかったぜ?」
歌声と共に歌詞まで聞き取れる自分。
モルジアナには歌詞など聞こえてはいない。
この歌は…ザガンの歌は、常人に正しい形で聞き取れるわけがないのだから。
「ご…ごめんね。持ってないんだ」
ハチミツちょうだい、と連呼する迷宮生物にアラジンがやぁ、と手を上げる。
ここまで一緒についてきた向日葵の迷宮生物が怯えていた。
先程アリババが言っていた通り、この迷宮のルールに従えば何も恐ろしくないのかもしれない。
同調して手を上げる巨大な白熊のような迷宮生物。
穏便に済むかと思った。
しかしその振り下ろされた手は向日葵を無残にも潰し、その何とも言えぬ断末魔が聞こえた。
「「『!!?』」」
「ハチミツよこせよォォォォ!!」
雄叫びを上げながら凶暴化した迷宮生物が牙を剥いて突進してきたのは怯えからか足が動かなくなった白龍。
地を割り、空を劈く唸り声。
武器を握る手が震える程に恐怖を煽るのは十分だった。
『白龍くん!』
思わず腰を抜かした白龍に振りかぶられた大きな拳。
しかし、その拳はファナリスの脚力を活かし白龍のと生物の懐に入ったモルジアナが受け止めた。
「はあああああ!!」
怯んだ隙に蹴りの連撃を生物の足に加える。
倒れる迷宮生物。
同時に叫ぶモルジアナ。
「アリババさんっ!!」
それを合図にアリババが力を宿したアモンの剣で斬りかかる。
炎の剣で切り裂かれ、相当なダメージを負っているはずなのだが、迷宮生物はいまだに最初から求めていたハチミツを執拗に求めていた。
「ないって言ってるじゃないか!」
起き上がろうとする生物に引導を渡すかのように杖にルフを集めたアラジン。
「灼熱の双掌!」
アラジンの放った火球は生物に直撃。
やったか、と全員が思った。
―背中を向けるな弱き者よ
―この迷宮内で、逃げることなど許されぬ
『!?』
「な…っ!?」
「ハチミツゥゥゥゥ!!!」
「エルさん!!」
ボロボロになった体が起き上がりシエルに拳が向いた。
誰の助けも間に合わない。
ドクン、と体中の血が巡ったような感覚。
体は勝手に動いていた。
『
―鎮め、迷宮に生きとし生ける者よ
』
「「「「!」」」」
アラジン達に聞こえた、透き通る美しい声は迷宮生物達にどう聞こえていたのか。
迷宮に響き渡った歌声は高らかに。
シエルの左瞳は、真っ赤に染まる。
『
―我が音の調べに従うがいい
』
黙殺された祈りの名前
(なぜ私は歌を歌うのだろう)
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アラジンたちには歌の歌詞は聞こえていません
モルジアナが聞いたザガンの歌同様鼻歌のように聞こえています。
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