白龍と別れ、宛がわれた部屋に戻ろうとした時にシエルはふと昼間の出来事を思い出した。
トランの銀の砂で洗礼を受ける3人組の事を。
中でも不敵な笑みを浮かべた、あの女性の事を。


『(なんでこんなに胸騒ぎがするの…?なんで…こんな…)』


誰かに助けを求めたくなるのか。





部屋に戻ればすでにモルジアナは眠りについていた。
モルジアナはモルジアナで慣れない環境に見えない疲れがあったのだろう。
シエルが白龍の所に行っている間にアラジン達の所から帰って来てシエルを待つ間に睡魔に教われたようだ。

モルジアナを起こさぬようシエルも自分の寝床に潜り込む。
懐に入れていたものに違和感を感じ、シエルは忘れていたそれを懐から取り出した。


『これ…やっぱり見たことある…』


ピスティから渡された、シンドバッドから託された短剣。
描かれた紋様に覚えはあるのに思い出せない。

些細なもどかしさも不安に繋がり、モルジアナの静かな寝息だけが聞こえるこの部屋でシエルは一人泣きたくなった。
いつも不安になった時には必ず彼が、シンドバッドがいてくれた。
思えば長くシンドバッドと離れるのは初めて。
これがホームシックと言うものだろうか。"ホーム"と呼べる場所ができた嬉しさが少し込み上げてきたが、今の不安を拭い去る程ではない。


脳裏によぎる黒い影。



―「貴方とは、また会える気がするわ」



相対さなければならないのだろうか。
いや、シエルにもなんとなくわかっていた。彼女達とはまた会うような予感がしていたことを。

今シエルを助けられる者などいない。
自分は毅然としていなければ、そんな思いがどこか胸にあった。
妙に焦っている白龍を見ているからだろうか、そういう者が傍にいると自分は落ち着いていられる。
しかし、それは冷静な自分を貼り付けているだけ。

本当はこんなにも寂しくて、心細くて、誰かに縋りつきたいのに。

でも頑張ると決めたのは自分。
ぎゅっと短剣を握り締めシエルはそのまま眠りについた。

助けてなんて、誰にもこの気持ちは届かないなら。
せめて夢では安堵の時間をください。




瞳を閉じ、眠りについたシエルの手に収まった短剣に輝くルフが舞った。





私の隣で傷付いてる誰かへ

(!)
(シン?)
(…いや…何でもない)



(シエルの声が、聞こえた気がした)
(夢の中では、貴方に会いたい)


_


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