先程までシエルを襲っていた頭痛は消えた。
おそらくウリエルが出てきたことによりザガンの一方的な更新が途切れたのだろう。

しかし謎の不快感は胸の中に渦巻いたまま。
胸に手を当ててもその答えがわかるわけではない。
自分に宿る彼女は教えてはくれないのだろうか、と思ったがどうやら今回は教えてくれないらしい。


「なぁ…さっきのって…」
『ウリエル、だよ。多分』
「多分って?エルさんに意識はなかったのかい?」

『…よくわからない』


借りる、という意味を理解した時には自分は眠っていた、ような。
でもどこか意識はあって、先程の会話もちゃんと頭に残っている。

―まさに"夢"

現実で起こっていることを夢として見るというのはなんとも変な感覚だ。


『…ごめん、私もよくわからないからまた分かったらでいい?』
「そうですね…とりあえず今は先に進みましょうか?」
『うん』
「そうだな…ここで足踏みもしてられないしな!」

「では、下へ降りてみましょうか」


瞬間にひょいっという効果音の元、モルジアナの腕に全員が抱えられる。
4人を抱えるのは流石に重いのではないか、とシエルは思った矢先白龍がモルジアナに自分が運ぶと言ったが逆にそれはモルジアナを刺激したのか表情がムッとしたものに一変。
私飛べるから降りようか?とやんわり聞いたが大丈夫と言ったのでシエルはモルジアナに委ねることにした。
最後まで口答えをした白龍だったが、止めにアリババが小声で大人しく従わないと腹パンされるという一言。


「降りますね」


直後そう言って絶壁を飛び降りたモルジアナに叫んだ白龍の声がザガンに響き渡った。

なぜシエルが叫ばなかったのか。
それはシンドバッドに抱きかかえられたまましょっちゅう王宮を抜け出していたからだろう。

『(シンドバッドさん達…元気なのかな)』

些細に思い出す出来事に、もうシンドリアが恋しくなってきたもので。






ブワッ


爛々と咲く草花。
辺りに舞う蝶は美しく。
異質と思われる無数の扉ですらキラキラと輝いている。

思わず興奮と驚愕に瞳を輝かせる5人。
殺伐とした迷宮を予想していた筈が、まさかこんな美しく輝かしい迷宮が広がっているとは誰も思いもしていなかったのである。


「こ…これが"迷宮ザガン"なのかよ!?」
「すごいねぇ〜!!きれいだねぇ〜!!」

『"迷宮"って…こんな綺麗なものなの…?』
「いえ、少なくとも私やアリババさんたちの入った"アモン"はこんな風ではなかったです」
「……"迷宮"もジンによって形が変わるのですね…興味深いです」


既知のアモンとのギャップに興奮しているアラジンとアリババを横目に、シエル・モルジアナ・白龍は変わって冷静に辺りを見回していた。
シエルはしゃがんで足元に生えた草花に触れてみるが、それは紛れもなく本物。

命を育む迷宮、素敵じゃないかとシエルは素直に思った。
なぜウリエルはあんなにザガンを嫌うのだろう。


「あ…カメだ。"迷宮"にもカメがいるんだなぁ!」
「ちっちゃくて可愛いね〜!」


アリババとアラジンの声に振り向けばそこには確かに小さく可愛らしいカメが。
その可愛さにシエルも思わずおいでおいで、と言おうとした瞬間。


「オマエら…超ウマそう」

『え』



なんとなく、彼女がザガンを嫌い理由の1つを知った気がした。





夢とザガンと迷宮と

(不思議な不思議な夢と迷宮)
(恐るる力はすぐそこに)

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