体が宙に浮く感覚、というのが一番近い。
光り輝く道を通り過ぎていく中頭痛はどんどんと増していく。
『…さっきの…ザガンの声は…』
私を導くものだったのだろうか。
それとも、私に宿るジンのものなのだろうか。
耐えるしかない頭痛に頭を抑えながらも、シエルは懐で光る何かに気付いた。
『これは…!?』
シンドバッドから預かった短剣が、辺りにも劣らない光を放った時。
―「主、しばらく体を借りる」
『…!?』
意識は沈んでいく。
パチンとどこかで音がしてシエルの意識は完全に消え、瞳は一瞬閉じられる。
『……ザガンか…』
目を開き、そして次の扉を開けた時にシエルの瞳は真っ赤に染まっていた。
背中に輝く光の羽。
赤い瞳が見据える宙に浮かぶ世界。
舌打ちをした彼女が降り立ったスタート地点で、この迷宮の物語は始まる。
「エルさん!」
「シエル殿!」
「シエルさん!」
「シエル!」
迷宮に降り立ったシエルの姿に目を見開いたのはこの場にいた全員だろう。
シエルの背中に輝く光の羽は、シエルの光魔法の応用により成り立っているのだが、まだ誰にも見せたことがなかった。
一言も喋らないシエル。
違和感を覚えた白龍がその背中に手を置こうとしたが、手が触れる前にシエルはクルリと振り向いた。
「「「「!」」」」
『すまないな。主は今眠っている』
「…眠って…?」
「まさか…」
「待っていたよ!!!!」
響き渡る嬉々とした声。
誰だ!?と白龍が武器を構え右を、左を見渡すが何の姿も見えない。
声の主の正体は一体誰か。
答えは彼女が答えてくれた。
『…相変わらず煩いな、ザガン』
「ザガン…!?」
「待っていたよウリエル!!」
「「「!」」」
先程から驚くこと続きの4人に関係なく会話は続行される。
『面倒だ。姿を現せザガン』
「いくら君の願いでもちょっと無理かな〜。でも、もう少し先に来れば姿ぐらい見せてあげるよ!」
『正直見たくもないのだがな』
「酷い!」
『喚くな騒がしい』
「…それに物騒なもの持ってるね…ソレ、久々に見たよ」
『私もまさか"これ"と再び相まみえることになるとは思ってなかったな』
「ならなんで?」
『主に聞け』
「ちょ、ちょっと待てよ!話が読めねぇぞ!」
驚くべきスピードで流れていく話に慌ててアリババが待ったをかける。
この場で今の状況を理解している者はおそらく当の2人だけだ。
声の反響する天を見上げていたシエル…もといウリエルはアリババと顔を合わせ、腰に指している八芒星の文様のついた短剣に目をやった。
『…貴様、アモンの主か』
「え?…あ、あぁ」
「げ、アモンのジジィもいんのか」
『……ならば覚悟しておけ、すぐに貴様を引き摺り出す』
その言葉を最後に、彼女は光に包まれた。
「…楽しみにしとくよ、ウリエル」
そして残したザガンの言葉は迷宮に消えていった。
光が収まり、静かになった迷宮の入口。
紫色の瞳がゆっくりと開かれ、シエルがぱちくりと瞬きを1つ。
『…?今、私…』
記憶の夢に落ちた光
(いつの間にかやってきた迷宮)
(彼女の瞳にはどう映るのか)
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