「なぜ貴様は私に関わる」
「え〜?ただ僕は君のことが好きなだけさ」
「そんな上っ面の話をしているんじゃない」
「…どういうことかな」

「お前…その調子で生きていたらいつか誰も信じれなくなるぞ」


ねぇ誰も信じられないだなんて悲しいこと言わないでよ。

貴方が誰かを拒むことで悲しむ人がきっといるはずだから。


「…相変わらず手厳しいねぇ」
「……もっと素直になったらどうだ」
「それを君が言うの?」
「あぁ言ってやるさ」




「ま、そんな釣れないところも好きだよ、…ウリエル」

「私はお前が嫌いだ…ザガン」












「シエル殿!」

『!あ……』
「…大丈夫です?うなされていたようですが…」
『……うん…大丈夫。ごめんね、もう着くのに』


そう、今はもうザガンに行く途中の船の上であった。
船の揺れも相まって思わず寝てしまったシエルであったが気分は全く寝た気分ではない。
さっきのは確実に彼女の夢だ。
それに、今まさに足を踏み入れんとしているザガンに関わっている。


「それよりもシエル殿の体調の方が心配です」
『ホントに大丈夫』


シエルはグッと拳を握って笑って見せる。
アラジンたち3人が乗るもう一隻の船から聞こえてくる笑い声。
さっきのがなんだったのかはハッキリしないが今はまだ不安に思うところではない。


『"…まだザガンまで時間はかかる?"』
「!」
「シエル殿…トラン語がわかるんですか?」
『まぁ…少しなんだけど…白龍くんも?』
「嗜む程度ですが」

「"あの、ザガンまではあと数刻かかります。休んでいても大丈夫だと思います"」
『"ありがとう"』

「…休んでいて下さいシエル殿。着いたら起こしますから」
『でも』
「"わ、私も休んでいた方がいいかと…"」


狭い船の上で2人の人に迫られればそれなりにすごんでしまう。
そして白龍に並ぶ幼い少女の願いというのにはどうにも拒否をしづらい。

どうしよう、と思ったけれどこのままの気分で船に乗っているのも気まずいかもしれない。
ならば自分は大人しく寝ていようか、とシエルは積まれた荷物に軽く背中を預けた。


「エルさん大丈夫か〜い?」
『大丈夫だよーっ』
「シエル、船も慣れてないんだし無理すんなー!」


少し手の届かない微妙な位置にいるアラジンとアリババの声がシエルと白龍の乗っている船に届く。
モルジアナも心配そうな表情でこちらを見ているのがわかった。
白龍はいつの間にか村長の孫娘と何かを話している。

この気持ちをスッキリさせるためにもまたあの夢を見ないように祈るしかなかった。
正直な体。
勝手に下がっていく瞼。



「"私も一緒に"迷宮"に連れて行ってください!!父と母を助けたいんです……!"」
「!?」



しかし意識を飛ばす前に不吉を予期するそんな言葉が聞こえてきた気がした。
なんでこんな時に限って眠気が優ってしまうのだろう。

迷宮に行く準備としてシンドバッドから託された短剣の紋章がチカッと光を放ったこと。
この時、それに気付いたものは誰もいなかった。



渦巻く黒い影。
迫り来る悪夢。
復讐の業火。







霞む誘惑へ降るもの

(シエルが目を覚ました時)
(これら全ては交わり、交錯する)



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補足
「」の中の""はトラン語です

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