ピスティのおかげで友好的になった鳥に道案内をしてもらい、シエルは無事に市場まで辿り付くことができた。
その道すがら、村人の小さな子供たちだけでなく、活気のある市場を通ったりしたがここの住民は住民で自分たちの生活を確立している。
他の文化なんて本の中でしか見たことのなかったシエルには全てが新鮮に感じる。
目移りしてしまう市場の中。
視線を右往左往していたせいで前への注意を怠ったシエルに、前方から歩いて来た誰かの肩がドンッとぶつかる。
「あら、ごめんなさい」
『あ、いえこちらこそすいません』
黒いローブに身を包んだ3人組。
その中心を歩く女性とぶつかった訳だが、ただぶつかっただけなのにただぶつかっただけではない謎の違和感を感じる。
「あら?貴方もしかして……」
『…なにか?』
「いいえ、なんでもないわ」
綺麗な水色の髪が肩から滑り落ち、シエルに向き合った女性はくすりと笑ってまた一歩を踏み出していく。
「貴方も選ばれた力を持っていますのね」
『…え?』
「貴方とは、また会える気がするわ」
―ごきげんよう
なんとも不思議な。
そしてなんとも不気味な。
何とも言えない不信感を抱きながら、シエルはまた4人を探す。
もう村長の家はすぐそこ。
しかし拭いきれないざわつきには、どうやらここにいる間は慣れそうにもない。
小さな黒いルフが1つ、空を駆け抜けて行った。
『アラジンくん!』
「エルさん!」
「シエル!」
丁度村長の家のテントから出てきた4人に、シエルはここまで自分を導いてくれた鳥にお礼を言って駆け寄った。
どうやら迷宮攻略の許可は得れたらしく、今からこの村を少し案内してもらうらしい。
「よかった、無事にこちらがわかったんですね」
『うん。ピスティさんのおかげで』
「アリババ…こちらの方は?シンドリアの方のようだけど…」
少し気の弱そうな背の高い人物。
アリババに面識のあるらしい彼、サブマドはシンドリアの文官の格好をしているシエルに少し驚いているようでもあった。
その隣に佇む村長と思しき人物も少し頭を低くしたような態度でシエルを見ている。
「こいつはシエル!俺たちの仲間だぜ」
『シエルです。一応シンドリアに籍を置かせていただいてますが…こちらの外交には一切手出しはしませんのでご心配なく』
「そ、そうか…!アリババの…なら安心だよ。僕はサブマド。一応アリババの兄なんだ」
『…アリババくんの!?』
「あぁ!」
まさかこんなところでアリババの血縁者に合うとは思ってもいなかったシエルが今度は驚いてサブマドを見つめ返した。
「あのシンドバッド王の客人なら歓迎じゃ」
『貴方が村長さんですね。迷宮攻略のご許可、感謝いたします』
「気にするでない。この島の市場が賑わっておるのはシンドバッド王のおかげなんじゃよ」
「おじさんの…?」
人で賑わう市場。
シンドバッドの恩恵を受けて成り立っているという市場には他国の商人なども積極的に商売に参加している。
シンドリアの駐屯地があるおかげで外交が安全に、かつスムーズに商売が行えることができるのだという。
それに加え、遅れた部族として迫害されたトランの民にシンドバッドは対等に接してくれるということらしい。
故に、この島はシンドリアの…シンドバッドの助けがあって成り立っているのだ。
尊敬すべき相手が敬愛されているのは嬉しいことであり、全員改めてシンドバッドの偉大さを再確認した。
「村長、新たに到着した商人3人が洗礼を求めています」
「うむ」
「「「?」」」
『あ……』
村長の元に現れたのは、先程シエルとぶつかった女性を筆頭とする3人組。
「私たちは、レーム帝国よりトランの民芸品を仕入れに参りました。長よ…どうぞ、トランの許しの洗礼をお恵み下さい」
そう言って胸に手を当てる女性は堂々としており、恍惚とした雰囲気すら感じさせる。
レーム帝国の人だったんだと思って成り行きを見守っていたが、商人は市へ入る時にトランの銀色の砂で浄めの儀式をするらしい。
『(……?)』
3人と4人の間に、撒かれた銀色の砂が輝く。
美しい銀色の砂。
その中で交わる視線。
どこか楽しそうな女性と無表情の男性。
仮面を被った男の3人の醸し出す不思議な空気に、シエル達は巻き込まれていった。
出発は明日。
ザガンへの道のりは遠く、そして近い。
あやうい鼓動
(聞こえる音、見えるモノ)
(全てに宿る意味)