島に到着し、まず探さなければいけないのはこの島の駐屯地であった。
シンドバッドに命を受けた彼らにはそれを探すのが迷宮へ行く近道であり道標でもある。
船から荷物を降ろし、ここでシンドリアの船とは別れるという事になったのだが、ちょっと待ってとピスティがシエルを呼び止めた。


「ごめんね、シエルはちゃんと後からそっちに行かせるからちょっと先行っててもらっていい?」
『え?』

「シエル殿を?」
「それは別に構わないけど…エルさんは大丈夫かい?」
「大丈夫、この島のみんなに聞けばすぐに追いつけるから。お姉さんに任せなさい!」


ピスティの言うみんなとは島の動物たちの事であろう。
人が見つからなくとも居場所を把握することができるだろうし、ある意味何よりも確実だ。
信頼の元アラジン、アリババ、モルジアナ、白龍は先に村に上陸しシエルは船場でピスティと向き合うことになった。

自分に何か非でもあったろうか、何の予想もできない中ピスティはピィッと笛を吹いた。


「ごめんね、先にあの4人をあの子に追いかけてもらうから」
『あ、ありがとうございます』

「いいよいいよ。引き留めたの私だし」


一匹の鳥に命を下したピスティは取りに手を振り、シエルもその行方を見守った。
しかし本題はこの後。

ピスティがシエルを引き留めた理由は確実にあるのだから。


「……これ、王様からシエルにって」
『!』

「何にどう必要なのかは分からないけど、意味があって渡したんだと思うから」
『……そうですか』


ピスティに差し出されたのは、1本の短剣。
豪華な宝飾がされているわけではない。
言うなれば素朴な短剣なわけだが、彼が何の意味もなく渡す訳はないだろう。

柄の部分に彫られている紋章のようなものにどこか見覚えのあった気がしたが、今それを思い出すことはできなかった。
でも、自分がこれを持つことに意味があるような、そんな気持ちもしていた。


『大丈夫ですよピスティさん』
「?」
『そんな不安そうな顔しなくても、大丈夫です』
「シエル………」


ピスティの表に出さない不安もシエルにはわかっていた。
シンドバッドも、当の本人シエルにも不安はある。

だがそうも言っていられない現実。

その時ピィ、と飛んできた1匹の鳥を手に止まらせてピスティは4人の居場所を聞いた。
鳥と対話をするピスティを横目に、シエルは渡ってきた大海原を見やる。

この広い海を渡ってきた。
この広い世界の中、私はシンドリアではない場所に来たのだと。
改めて実感したシエルに囁かれる声。




―「ザガンには気を付けろ」



『……?』




頭に直接響く声は彼女のものだろう。


「シエル!4人は村長の家に行ったらしいよ!」


ピスティの声に引き戻された現実と
夢の狭間で彷徨う彼女

行ってきます、とピスティに告げたシエルが行きつく先は。





残影ラグナロク

(運命よ)
(彼女をお守りください)

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