疲れたなんてもんじゃないレベルの疲労。
1日の仕事がここまで辛いと思ったことはない。

シンドバッドが仕事をサボるのそれなりに多い事象だがジャーファルを筆頭に働き頭全員がいないのは予想外。
やってもやっても減らないという形容が一番しっくりくる。
それでも徐々に減っていく書類の山に希望を見出し仕事がひと段落したシエルは中庭の木陰に身を落ち着けていた。

しかし明日からもう少しこの業務に追われることになるであろう。
それ程1日の仕事量というのは多い。
1人で数人分の仕事消化はさすがに体にクるものがあった。
とは言っても、無情にもシエルに休みはない。


『(全員大人しくしてくれればいいけど…)』


シエルの心配をよそに、シエルの自室にて。

窓から筒抜ける風。
その場にいない1人の人物。

それが誰かは言うまでもない。



「あのバカ王はどこ行ったぁあぁああぁぁ!!!!?」



人というのはなぜダメと言ったことをしたがるのだろうか。
今の現状を彼は理解しているのかすらも疑問に思う。

しかし探しに行けない自分がもどかしい。

シンドバッドの行く所なんて彼女の元しかない。
こうなってしまってはもう任せるしかないのだが、ジャーファルは久々に何もできないことをもどかしく思った。













「(視点が低いといつもと随分変わって見えるな!)」


探究心が勝って部屋を抜け出したシンドバッド。
カモフラージュがてらシーツを頭からシーツを被っているのだが動く白い塊は正直怪しい事極まりない。

いつもより数倍も下に下がった視界から見上げる世界はいつも歩き慣れた自分の王宮とは思えなくて胸も躍る。
探しているのはシエルだがいつも仕事をしている部屋にはいなかった。
ならば探すしかないのだがこの姿で人に見つかるのは厄介だし面倒事にしたくないのは事実。

低くなり狭くなった視界。
とは言っても視力は落ちていないのだから見えるものは全て見えている。


「(!シエル!)」


その辺りはあざといと言うか。
中庭の木陰に見つけたシエルの姿に大きな瞳を見開く。

周りに人がいないことを確認して開けた廊下からシーツをパラシュート状にして飛んだ。
小さくなっても心はアクティブ、それがシンドバッドだ。
誰にも見られない最善の配慮として最短ルートを選んだのだが正直かなり危ない選択肢だろう。

目立つか目立たないかと言えば、かなり目立つ。
なのに視界に映るシエルは微動だにしなかった。

既にその時点で1つの推測が立っていた。
トッと降り立った中庭、木陰に座り込んでいたシエルに近付けば聞こえてきたのは小さな寝息。


「寝てるのか…」


1日でかなりの仕事をこなしたのであろう、無理もない話だ。
試しに頬を突いてみたが起きる気配もなく。


「しかし…このままだと風邪をひくぞ…」


このまま寝かせて置きたいのは山々なのだがそうもいかない。
こうなると自分が今小さいことを恨めしく思う。
普段であればシエルを運ぶことなど造作もないのだが現在はこの体格差。

どうしたものかと数分悩んだ結果、思いついた方法は。



「そうだ!」



自分が今しがた使ったシーツをシエルにかけ、シンドバッドはそれに隠れるようにしてシエルの隣に寝転がった。
シエルが起きたら怒られることは必須。
部屋に戻ってもジャーファルにどやされるのは必須だろう。

―しかし今はこれでもいいか。

楽観的なシンドバッドの思考は大きくとも小さくとも変わらないのだから。






シンドリア魔力暴発事件簿4

(隣に寄り添う温度は暖かくて)

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