白龍が迷宮攻略に名乗り出ることは分かっていた。
そうすればシエルも名乗り出ることも。

直接的にシエルを迷宮攻略に同行させるという旨は伝えなかった。
そしてシエルがどう言ってくるかを観察したのだ。



―『白龍さんが行くなら、護衛として私も迷宮攻略に行かせてください』




予想通り、というかこうなるように事を仕向けたのは自分。

皮肉なものだ。
誰よりも彼女の成長を願っていながら用意してやれる道は暗く険しい。
誰よりも心配なのにそんな時自分は隣にはいない。

あの時目を合わせることもできなかった。
合わせられなかった、そんな臆病な自分はなんなのだろう。

馬鹿げ過ぎて自身をあざ笑う声も出ない。


「ザガンは誰に宿るでしょうか…」
「…魔法使い…しかもマギであるアラジンはないだろう…アリババくん、眷属器発動前ならモルジアナ…白龍皇子…それにシエルか」

「…確かウリエルは他のジンを嫌うと?」
「あぁそうだ。…故にどうなるかわからない」


ジン同士が互いを知らないという事はないだろう。
その上から考えるとシエルにザガンが宿る可能性は低い。
だが可能性は0ではない。

主はザガンが決めるのであり誰が何を言っても憶測にすぎないのだから。


「何もできないのは…もどかしいですね」
「…そうだな」

「まぁ、たまには待つ側の気持ちにもなってみろってことです」
「おいおい手厳しいな」
「いっつも人を待たせる罰じゃないですか?」


心配事は尽きないのだから、もう待つ以外道はないのだ。
行かせてしまった過程はもう引き返せず、彼女はもうシンドリアにいないのだから。

それにしても胸に残る胸騒ぎ。


ザガン…ウリエル…迷宮攻略…アル・サーメン


そしてシエル。
あのジュダルにはその全ての存在を知っている。

さぁ、と風が吹いてシンドバッドの髪を攫って行った。



「前も言いましたがシエルを傷付けたら許しませんよ?」
「…わかっているさ………ジャーファル」

「?」



「今すぐマスルール、ヤムライハ、シャルルカンを呼べ」
「なぜ」



なぜと問うたその答えは勘なのだが。
こんな勘だけは当たるのだから困るよ、シンドバッドは頭を抱えなからもこの場にいない彼女を思った。

虫の知らせ、直感、それを形容する言葉は沢山ある。
しかしシエルに関することだけはどうにもそれでは片付けられなくて。



―あぁこれを運命とでも言うのか



ウリエルは自分をどう思うだろう。
今ほど夢に溺れたいと思ったことはない。

現実は痛くそこにまざまざと立ちはだかるのだから。






月は万人の睦言を見届けた

(きっと今夜は三日月)

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