シンドリアよりさらに南のごく小さな孤島
南海の秘宮"ザガン"
攻略者の強さによって迷宮は姿を変える
「…あ、"彼女"が目覚めたみたいだ…」
感じ取った力に目を覚ました声は酷く陽気だ。
歓喜に満ちた声。
心から楽しそうに笑い、再び目を閉じて瞼の裏に映る彼女を思い浮かべた。
「いつやって来てくれるかな〜…」
楽しみ♪と呟いた彼の言葉を聞いていた者などいなかった。
迷宮に行くのは初めてで、何をどう準備していいのかわからず最低限のものを持ち物に詰め込んだ。
シエルは先程目を合わせてくれなかったシンドバッドを思い小さなため息をつく。
何を考えているのかはわからない。
真剣に迷宮攻略の事を考えているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
ただ、シエル的にはあの白龍のこともどうしても気になるのだ。
うーん、と色々考えてきた思考はバーンと思いっきり開いた自室のドアに中断させられた。
「やっほーうシエル!」
『ピスティさん?あれ、ピスティさんも行くんですか?』
「ううん私は船の護衛だよー」
その言葉とピスティの力になるほどと納得しポンと手を打った。
既に知っているピスティの力は確かに船の航海には向いているだろう。
シエルは1度しかそれを見たことがないのだがピスティが船の護衛によく就いているのはそれ故だろうということも伺える。
「シエル後で王様のところ行ってきなよー」
『シンドバッドさんの?』
「うん。ちょっと話があるってさ」
『……』
「どうしたの?さっきから妙に不安そうにしてるけど…迷宮攻略が怖い?」
『そうじゃないんです…いや、迷宮攻略が怖くないと言ったら嘘になるんですけど』
背筋に感じる冷たさはそう言ったものではない。
ただ、何よりも恐ろしいのは
『…いえ、なんでもないです』
「……そう?」
明らかにピスティは納得していない表情だったが、言わないのであれば聞きはしない。
そういうことは言いたい人に、言いたい時に言えばいい。
―ただ、それを言うタイミングを逃さなければいいけど
ピスティはそれを切に願った。
同時にシンドバッドならシエルの不安を吐き出させてくれるのではないかという希望も持っていた。
「シエルはさ、結構うだうだ考え過ぎじゃない?」
『え?』
「もっとさ、心を軽くしようよ。そうしないと楽しいことも楽しくなくなっちゃうよ」
ニヒッとピスティは悪戯に笑う。
それが彼女らしく、どこか癒される雰囲気を纏っていた。
18歳とは思えない幼さを感じるからだろうか。
不思議なものだな、と思った。
それでも拭い去れない気持ちはどうしたらいいのかわからなくて。
『ありがとうございます』
シエルは苦笑いしか返すことができなかった。
さぁ、悪夢はここから始まるのだ。
幸せとは抗えぬ夢
(今朝見た嫌な夢は思い出せなくて、)
(酷く胸騒ぎがする)
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