アラジンから告げられた驚愕の事態。
どういうことだよ、とアリババが問うとそのままの意味さ、とアラジン。

違う世界、それが何を意味するのかを理解するには少しキャパシティがオーバーしそうである。


「それにこのおねいさん…どうやらいい環境では育っていないみたいなんだ」
「そりゃ…まぁ、そういう子だっているだろ」
「そうじゃない…さっきおねいさんが言って通り、ファミリーネームがないってことさ」

「「「?」」」

「家族に家族として認識されず、ずっと暴力を振るわれてたみたい」
「家族に…!?」

「…それであの人間不信、か」
「いや、ルフが教えてくれたけどどうやら男の人限定だけさ。母親はいないらしいから」


チラリと視線はシエルの方に。
先程のシンドバッドへの拒絶の仕方からすると敵ではないといってもやはり恐怖心は拭い去れないのだろう。
大体の事情は把握した。
ただ異世界から来たというのが理解しがたい。
そこは本人に聞くしかないだろう。

モルジアナがゆっくりとシエルへ近付き、汚れた顔に触れる。
指を滑らせると微かに指に汚れが移ったがモルジアナはそんなことは気にしなかった。


「とにかく…休ませてあげませんか?流石にこのままでは…」

「…そうですね。刺客だったとしても意識がないままでは話も聞けませんし…」
「なんだ。アラジンの話を聞いてもまだ刺客と疑うのか」
「当然です。用心に越したことはありません…ですが思いますがルフがそう告げるのであれば、と言ったところでしょうか」


ひとまずこの中で唯一の女であるモルジアナがシエルを抱える。
体格差はあったものの成人男性を何人も抱えることのできるモルジアナに少女1人を抱えることは容易いことだった。
だが抱え方によっては下着が見えかねない様な短い腰布のようなもの…スカートを履いていた為に抱え方に大分混乱した。
普通よりも遥かに軽いシエルを抱え、促されるままに客室の休める部屋へ。


「どうします?このまま寝かせるにしても…一人にするのはどうかと思います」
「確かに、逃げ出しかねねぇしな…」

「とりあえずモルジアナ、今夜は付いといてくれるか」
「はい」
「ヤムライハも呼べればいいのですが…生憎今夜はいませんしね」
「…」


苦しげな表情のまま眠るシエルにシンドバッドは複雑な気持ちになった。
ジャーファルの言う通り本来なら警戒をするべきなのであろうが、なぜか放っておけない。


「俺も付いておこう」
「シン!」

「文句は言わせんぞ」


有無を言わせない目線がジャーファルに突き刺さる。
モルジアナとシンドバッド、とりあえず何が起きても対応はできるだろう。
家臣としてそれを許すのをよしとするかは別だが、言われてしまえば許す他はない。
ため息を1つつき、何かあったらすぐに呼ぶということを条件にシンドバッドのそれをよしとした。

バタンと客室部屋のドアが閉まり、部屋にはシエル・シンドバッド・モルジアナがいるのみになる。
シエルが寝ている為に明かりは付けられず、光は差し込む月明かりだけ。


「シンドバッドさんは…シエルさんをどうして気にかけるんですか?」


沈黙の部屋の中、モルジアナはシンドバッドに問うた。
経緯を聞く限り、確かに恵まれた少女でないことは分かるが王という地位に立つ彼がここまで気に掛ける理由はないはず。


「なんでだろうな…俺にもよくわからん」
「…そうですか」

「ただな、なんとなく放っておけないんだよ」

「……」


明かりの少ないせいか、シンドバッドの表情は伺えなかった。
寝顔を見つめているのだろう、シエルの方へ向いた視線にモルジアナも顔を向ける。
違う世界、話が本当であるならこの世界にシエルの脅威はないというのに苦しげな表情のまま。
それ程までにシエルに感情の足枷がついているということを意味している。

モルジアナがシエルを気に掛ける理由はそれだった。
きっとこの人は私に似ている、と心のどこかで思っている。

コツ、とシンドバッドがシエルに一歩近付く。
モルジアナは止めなかった。
なぜだろう、きっと大丈夫だという確信があったから。



「せめて、夢の中では幸せであらんことを。シエル」



寝ているシエルの頭にシンドバッドが手を置いた。
拒絶のしようのない意識の遠のいている彼女に、全てを包む大きな右手。

慈しむような笑みを浮かべたシンバッドの語りかけに、モルジアナにはシエルの眉間の皺が減ったように見えた。




キミに送る祝歌

(次に差し込むのはきっと希望の光)

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