初めて真剣に人を好きになった。
昔から人にはあまり恵まれず、敵と味方を上手く作って上手に生活してきたけど、人を好きになったことなんかなかった。
戸惑いを隠せない自分の感情は思ったより素直だったが、生憎内面の感情じゃなく表の自分はあまのじゃくだ。
そしてなにより、"手に入れる"のが怖い。
手に入れたら後は離してしまうだけだから。
今までも何度も何かを手放してきた。
かといって手に入れたものを離さないだけの力もなくて、もどかしくて。
マネージャー業で慌ただしく走り回る名前先輩を見かけて、自分が休憩時間なのも忘れて駆け寄って行った。
「名前先輩、手伝いましょうか?」
『え?でもいいのマサキくん、休憩中なんでしょ?』
「大丈夫ですよ」
『じゃあお願いしちゃおうかな!』
名前先輩の傍に寄って行って進んで手伝いする。
その心の内では名前先輩と一緒にいたいという下心。
(中学生真っ盛りなんだしこれくらい許して欲しい)
きっとお日様園の奴らが見たら俺の丸さにビックリするだろうと思う。
それぐらいに名前先輩が好きで仕方ない。
同時に誰かを好きになるってこんなに幸せで、こんな苦しいことなんだと知った。
『マサキくんありがとう!おかげで助かっちゃった』
「これくらいなら大丈夫ですよ」
『ふふ、マサキくん頼もしいね』
やわやわと頭を撫でられる。
名前先輩の手の平の温度ぎ伝わってきてほんのりと暖かい。
(俺の手はあんなに冷たいのに不思議だよな)
たった一時の夢でも、悪夢でない幸福な夢が見れるなら俺は何でもしようじゃないか。
子供扱いされているってことは分かっている。
身長だって俺の方が小さい。
名前先輩から見たら弟みたいな感じなんだろう。
「狩屋ー!」
『!霧野くん呼んでるよ。手伝ってくれてありがとう!』
既に休憩が終わっていたらしいから呼ばれたのは俺が悪い訳なんだが、全く空気を読まない先輩なこった。
『いってらっしゃいマサキくん』
「はい。行ってきます!」
手には入れられない。
でもきっと、近くにいるのは自由だろ。
俺が先輩を手に入れる勇気が俺に付いたら、いつか。
それはいつになるかはわからないけれど。
貴方を迎えに行くから
(…霧野先輩空気読んでくださいよ)
(はぁ?なんだ藪から棒に。何かあったのか?)
(秘密ですよ)
(?)
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