名前の両手には大きな紙袋が1つづつ。
学校で使うものなのかと言われたら否、中身は全て貰い物である。

『…重いなぁ』

かといって貰ったものを捨てるわけにもいかず。


「いいなー名前!」
「モッテモテじゃん!」
「羨ましいよ…」

『…いやぁ〜くれるのは嬉しいんだけどね…』
「モテるやつの言い方は違うね〜名前クン」
『マサキだって貰ってんじゃん!』
「いやいや名前クンには負けるよ」


部室までの行き道まで大量のチョコを始め大量の甘味物をぶら下げていた。
雷門のカバンが肩掛けできるカバンでなければ持って帰ることすら難しかっただろう。
1年生全員で部室に向かう途中の勿論話題はそれ一色。
思春期のしょうがないと言えばしょうがないのだが名前としては複雑な心境だ。

学校に着いてからというもの休み時間も女子生徒に囲まれチョコレートの嵐。

この日名前に安息の時間など存在はしなくて放課後までに至ったが部室に向かっている今でもチョコを持ってくる女子生徒が数人いた。
その度に天馬たちが恨めしそうな表情で見てくるのがまた複雑である。


『…アキさんにこれでチョコケーキ作ってもらお…』
「あ!ずるいぞ名前!」

『そんなこと言っても―っうわ!』
「え?何………うっわ…」
「…なになに?…………えぇ〜……」


サッカー棟部室のドアを開けた瞬間に1年全員の奇声が上がった。


「…名前、お前もしかしてその紙袋は…」
『……チョコです…』
「やっぱりか…」


そうして項垂れるのはサッカー部の面々。
視線の先にはチョコレート。
部室に大量に置かれたチョコレートに名前が持ってきたチョコレートが追加される。


「にしても神童と霧野、南沢に匹敵する量をもらってくる奴がいるとはな…」
「まったくだぜ…」
『ま、毎年こんな感じなんですか…?』
「大体はな」

「ちゅーかいいな〜俺もお菓子欲しー」
『…先輩とはいえ流石に人から貰ったものは…』
「わかってるって」

「凄く…甘いんですけどこの部屋の臭い」
「しょーがねーよこの量ならな」


無数の紙袋の中身から広がる香りが部室を埋め尽くした。
いい香りだといっても度が過ぎるとキツくなってくる。

思わず換気扇を付け一息を付くが辺を埋め尽くすチョコの圧迫感からは逃れられない。


「お前!らそろそろ時間だぞー……ってあぁ、今日はバレンタインだったか」
「そうですよ監督」
「こいつらが大量にもらってくるもんで」

「よっ、女泣かせ名前クン」
『泣かせてないっ』

「監督も奥さんから貰わなかったんですか?」
「………あはは…」
「「「「?」」」」


―あれはチョコじゃない殺人兵器だ。

などと言えるはずも無く円堂は苦笑いを漏らしそれを見て名前はなんとなく現状を察した。


「これ…食べきれるのか…?」
「俺…無理かもしんね」

『僕はちゃんと全部食べますよ。女の子達が僕のためにくれたものなんですから』
「…名前カッコいいー……」
「そんなんだから女子にモテるんだろうな………」
『…あははー』


僕もその女子なんだけどね、とは言えず。
円堂と同じく名前は苦笑いを浮かべて鼻腔の奥に香る匂いを胸いっぱいに吸い込んだのだった。







男と女のキモチ

(……複雑だー……)
(…まぁ素直に喜んどけ名前)
(円堂さん…そういえば今日一日顔色悪いですけど)

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