好きなものには甘い性格、と言うのは自分ではなかなか認知し辛いものがある。
周りからの指摘を素直に受け止め、自覚症状がある場合はまだいい。
ただそれが普通の状態である、と開き直られてしまえばもうどうしようもない。
「南沢さんて名前に甘いっすよね」
「別に。俺は普通にしてるだけだぜ」
「……」
倉間は前者の自覚症状のない甘やかしにため息。
直後駆け寄って来る名前の姿が見えてもう一度ため息。
またあの天然甘やかし劇場が始まるのかと思うと気が重い。
何が恐ろしいって無自覚なのが恐ろしいのだ。
『南沢さんっドリンクどうぞ!』
「あぁ、ありがとな名前」
『きゃっ』
ドリンクを受け取る前に名前の額に南沢の唇が落ちた。
驚いた様だったが嬉しさが勝るのか終始名前は笑顔を浮かべている。
南沢の表情も完全に緩みきっていて今度は頬に唇が落ちた。
既に驚く素振りを見せなくなった名前に南沢も満足げな様子でドリンクで喉を潤している。
楽しそう、嬉しそうなようでなにより。と優等生ぶった答えなら言うだろう。
ただし青春真っ盛りでやさぐれがちな中学生的には目のやり場に困る、リア充爆発しろ、等言いたいことは山ほどあるのだ。
で、厄介になってくるのが最初に述べた甘やかし無自覚論である。
「…イチャつくなら余所でやってくださいよ……」
「だから普通だって言ってるだろ。なぁ名前」
『ですよね南沢さん!』
「…なぁ神童…」
「言うな倉間…諦めろ」
胃痛をも催しそうな日常。
砂でも吐けるのではないかという甘さ。
これが日常と定着してしまうのは酷く腹立たしいものがある。
だが変わらないのであれば仕方がない。
『南沢さん帰りは一緒に帰りましょうね!』
「バーカ。何当たり前のこと言ってんだよ」
『えへへー』
「帰りはアイスでも奢ってやる」
『ホントですか!?やったー!』
「ま、代金はコレでな」
直後また響くリップ音。
南沢の所望した代金は名前の唇だった。
バカらしい、と辺りはため息をつく程だが本人たちにとっては至って真剣なので何とも言えない。
むしろ口出ししたら怒られるレベルの問題である。
いつかこのバカップルが大人しくなる日は来るのだろうか。
サッカー部員は心を一つにしてそう思った。
が、そんな日はきっと来ないのだろう。
無自覚バカップル
(も〜皆の前ですよ?お返しですっ)
(お…やったな?)
((俺今なら砂吐けるわ))