『最近いい歌が歌えない』


そう名前が言ったのは一週間程前。

相談がてらに話をしていたのはアイドルコースの中でも仲が良い来栖翔だった。
名前は男装して早乙女学園に入学している為名前が実は女だと言うことは校長であるシャイニングしか知らない。
髪が長く、元から中性的な顔立ちをしているので女とも男とも見てとれる容姿は名前の武器の一つだ。
そんな名前のよきライバルでもあり、よき友人でもある翔はよく名前の相談を受けることが多かった。
スランプに陥るということ自体はは珍しくないので大概皆が皆それぞれのスランプ脱出方法がある。


「…なら気分転換でもしようぜ!」
『気分転換?』

「そ!どーせなら皆誘ってパーッと買い物でも行こうぜ!」


気晴らしはスランプ脱出方の一つであり、翔自身も気晴らしに行くことで心と体をスッキリさせることが多かった。


『そうだね…最近街にも出てなかったし…行こうか!』


こうしてAクラスやSクラスのいつもつるんでいる友人達を誘い、気分転換にと言うことで街中へ飛び出して行った。







「わ〜…さすがに休日だから人が多いね」

「翔ちゃんも名前ちゃんも…小さいからはぐれちゃいそうです」
「うるせぇ!子供扱いすんな!」
『まぁまぁ翔、落ち着きなって』


軍を抜いて背の低い名前と翔は確かに人混みに紛れてはぐれてしまいそうではある。
だが身長の事で子供扱いされるのは大嫌いな翔は頭を撫でようとする那月の手を振り払い、腕を組んでふて腐れた。


「名前は大人ですね」
「あぁ。おチビちゃんとは大違いだ」
「んだとレン!」
「来栖。神宮寺の挑発に乗るな」
「〜!わかってる!」
『そういうのが分かってないんだって…』


名前はホントは女の自分の身長が低いのはしょうがないと思っているので那月の態度に対しての咎めは諦める事にしている。
認めてしまえばチャームポイントにもなる低身長は武器だとすら感じていた。


「おチビちゃんも見習わないとね」
「…名前だって俺よりチビだろ」
『僕はコンプレックスとは思ってないし』
「……そーかよ」

『そーだ……よ!?』
「うわっ!」


一気に押し寄せてきた人混みが7人を流して行き、お互いの姿が目視できなくなっていく。
手を伸ばした時は時既に遅し。

完全に流されきってしまった名前は参ったなぁと携帯を開いた。
電話は電波が通じるかわからないし、とりあえず現在地をメールで送る。
こちらから現在地を送った以上身動きをとれば入れ違いにも成りかねない。
送信完了画面を確認して名前は携帯を仕舞い、アスファルトの壁に身を預ける。


「ねぇねぇ君今一人なの?」
「俺達と楽しいことしに行かな〜い?」

『(…うざ)』


まずは自分が女とは言え男装をしている以上怒るべきなのだろうか。

視線を合わせることさえも煩わしいと感じるチンピラがチラつき、名前はシカトを決め込むことにした。
ただし、この方法は相手のやる気を削ぐか相手の怒りを誘うかのどちらかだ。


「ちょっとちょっとシカト〜?」
「別に変なことはしないって」
「ただ遊びに誘ってるだけじゃん?」


そろそろウザくなってきていい加減何か言ってやろうと思って口を開きかけた時。


「俺のツレに何か用かい?」
『は…?レン?』

「げっ、ツレいたのかよ」
「つまんねー。行こうぜ」


思ってもいない人物の登場により退散して行ったチンピラ。
ぽかんとしている内に視界から完全にチンピラが消え、辺りには隣に立っているレンしかいなくなる。


『レン…最初からいたの?』
「まぁね。ナイトは遅れて登場するものだろう?」
『…性格悪い』

「おっと、助けたんだからお礼ぐらい欲しいものさ」
『は?』


安心したのも束の間。
レンに顎を掬われレンの顔が少しずつ近づいてくる。

いや僕男って言ってるはずなんだけどレンってアッチ系の道だったの…?
数秒間の間に名前が思ったことは世間的には間違っていない筈だ。





「ちょーっと待ったぁあぁぁぁぁあぁ!!!!」




轟音を轟かせて名前とレンの間に割って入ってきた小さな体。
名前とレンの唇が接触する前に2人を引き離し、ぜぇぜぇと息を荒げているのは翔だった。


「あ、いたいた名前にレン発見〜」

「てめぇ何してんだレン!」
「何って…ただの社交辞令さ」
「嘘つけ!!!名前!行くぞ!」

『は?翔!?』


全員が2人を発見したのと入れ違いのように翔とそれに連れられた名前が街中へ飛び出していく。
レンには気をつけろよな、という翔の言葉に思わず笑ってしまって。


『あはは、翔ありがと!今度はいい歌が歌えそうだよ』


笑顔で言った名前に翔が顔を赤らめていたことは誰も知らない。







親の心子知らず

(レン…お前ってまさか)
(なんのことかな)

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