今週、私達雷門中学のサッカー部は万能坂中と試合らしい。
先に断っておくが私はマネージャーではない。
ただマネージャーの茜ちゃんと仲がよくってその情報を仕入れただけ。
万能坂…あそこには幼馴染の光良夜桜がいる、筈。
筈って曖昧なのは夜桜があんまり私に情報をくれないから。
こっちから調べられるっちゃ調べられるけど夜桜の報復が怖いから結局調べなかったけどね。
本当は中学も一緒の中学に行きたかったのに夜桜は最後まで受験する学校を教えてくれなかった。
最終的に掴んだ情報も小耳に挟んだ程度。
気持ちを伝えずに終わってしまった私の恋の火はポツリと灯ったまま。
「名前ちゃん、試合見に来る?」
『え?』
「見に来るだけならタダ」
茜ちゃんに言われてそういえば、と思った。
別に見に来るなだなんて言われたことないしまず中学になってからは会ってすらいない。
会いたい。
そう思った私の足は自然と万能坂中に向いていた。
サッカー部自体に関わりのない私は勿論観客席からの観覧。
夜桜はやっぱり万能坂中のフィールドに立っていた。
ずっとサッカー続けてたんだ。そう思って見ていたけれど夜桜のサッカープレイは驚く程に変わっている。
『…どうしたんだろ……』
元から確かに荒々しい性格だったけどそれに増して怖さが増していた気がする。
どうしても席からじゃフィールドを見渡すのは遠い。
見守るには辛い思いをするかもしれないと茜ちゃんが言ってたけどこのことだったのか。
でも試合は雷門の優勢で終盤を迎える。
応援するにもどっちを応援したらいいのかわからない。
ただ試合の行く末を祈ることしかできなくて。
気付いた時には試合は終わっていて辺りは歓声に包まれていた。
『!』
「!」
『夜桜……?』
フィールド上で呆然と項垂れる夜桜と一瞬目が合った気がしていても立ってもいられなくなった。
観客席から通路を走り抜けてフィールドへの一本道を駆け抜ける。
目が合った夜桜の目はやっぱり変わってなんかいなかった。
変わったと思っていたあの怖さはただの去勢にしか見えなくなってしまったから。
「…やっぱり名前か……」
『!夜桜…』
私の行動を先読みされていたのか通路の先から夜桜が歩いて来る。
「なんでここにいること知ってたんだよ…」
『なんでって…いろいろ情報集めたからに決まってるでしょ!』
「…わざわざ教えなかったってのに……」
『な…なによ…私は夜桜に会いたかったからここまで来たのに…!』
「!」
中学生になってからだって夜桜への思いを忘れたことはなかった。
だからこそこうして会いに来たっていうのに。
夜桜がピタリと動きを止める。
俯けていた顔を上げると驚いたような顔をした夜桜。
目を合わせた瞬間視界は遮られいつもより上ずった夜桜の余裕のなさそうな声がした。
「…なんでお前は…俺なんかを追いかけてくるんだよ…」
やっぱりあれは去勢だったのか、と。
先程の試合とは似ても似つかない弱弱しい夜桜に私は思わず笑ってしまった。
『そんなの…』
夜桜が好きだからに決まってるでしょ。
通路内でのランデブー
(…バーカ)
(それは夜桜もでしょ)
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