第一印象は"普通"だった。
2年に上がってから転向してきたそいつはどちらかというと活発とは言い切れず、気付けば窓際の自分の席で本を読んでいるような奴。
苗字名前は俺の隣の席だ。

転校生ということでスポットがあたり隣のクラスなどからも野次馬ができていたものの苗字の性格上それが長く続くことはなかった。
静かな事を好むのかあまり意見を言いたがらないし俺も特に関わることはないだろうと自負していた。


「あれ…霧野のクラスの転校生じゃね?」
「え?」


倉間に言われた部活中の事。
校舎を見上げてみれば確かに、俺のクラスのあの窓際の席にいるのは苗字だ。

放課後も文庫本片手に机に座っていた筈の苗字の視線の先は間違いなくこのサッカーグラウンドだった。
遠目ではあったがこのグラウンドを見つめている苗字の表情はとても穏やかで。
見たこともないその表情にどこか惹かれた。


「サッカーに興味がありそうならマネージャーに誘ってみたらどうだ?」


神童に言われてマネージャーか…と考えてみる。
裏方作業とか、苗字は好きなんじゃないかと思いそれもアリかと神童にその申し出を承諾した。
誘うならキャプテンである神童の方がいいだろう。

そう思ったが意外にも神童は俺にその役目をバトンタッチしてきた。


「お前にも春が来そうだからお前に任せる」
「な…っ!」

「マネージャーの件ともう一件、報告待ってるからな」


どうやら既に俺の気持ちに気付いた神童は完全に楽しんでいるようだ。
明日にでも誘ってみろと言う神童の笑顔が若干黒く感じた。
(いつからそうなった神童……)

確かにこれはチャンスなのかもしれない。
だがどう声をかけたらいいのかが分からず、俺はその日眠れぬ夜を過ごすのだった。








「(結局何も浮かばなかった……)」


寝不足顔丸出しで登校した次の日。
いつも通り隣の席で苗字は読書をしていた。
昨日と持っている本が違う、と意識して分かってしまう辺りハマっちまったなぁとこっ恥ずかしくなる。


「苗字!」
『へっ!?な、なに霧野くん?』

「悪い邪魔したか?」
『大丈夫大丈夫!で、どうかしたの?』


本を読んでいたことに集中していたのか声をかけたらこっちがビックリするくらい肩を震わせやっと目線が合った時にはこっちが恥ずかしくて目が合わせられなくなっていた。


「あー…その、苗字ってさ、サッカーに興味ないか?」
『え…!?…もしかしてグランド見てたの見てた?』
「あぁ。昨日見てただろ?それで神童がマネージャーに誘ってみたらどうだって言うんでな」
『…!』
「?」
『見てるのバレてたんだ…!』


今度は頬を染めて開いていたままの本で顔の下半分を隠す。
そんなコロコロ変わる表情が可愛いなって不謹慎にも思ってしまって俺まで顔が赤くなってしまった気がした。
苗字と目が合っては俯くようなもどかしい数十秒を過ごし、苗字が少し言い辛そうにおずおずと口を開いた。


『…昨日私が見てたのはね、実は霧野くんだったの』
「え……?」

『だから…そんな私でよかったらだけどマネージャーの話、喜んで引き受けるよ』


俺は少し期待していいんだろうかと自惚れるあまりに、後に神童にチクチクと弄られることに俺は気付いていなかった。






淡い思いと片思い

(よかったな〜霧野)
(…うっ、うるさい!)

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