学校という限られた時間の中。


恋人と言っても学生同士が会える時間は日常の一部内だけであり、恋人と言うのはただの肩書きに過ぎない。
だから学校と言う時間を大事にしたくなると言うもの。


『京介くんっ!』


廊下で見かけた雷門の制服とは違う一際目立つ格好の剣城を見かけ、名前はパッと顔に笑みを浮かべ剣城に駆け寄った。
剣城も名前の声に振り返り、この学校で唯一自分を下の名前で呼ぶ彼女を黙視する。
完全に剣城が後ろを振り返る前に名前は剣城の広い背中へ抱き着く。


「名前か」

『おはよう!今日は朝から見つけた!』
「なんだそれ」

『朝から京介くんに会えたらいいことがあるって言う私のジンクス!』


生徒からは恐れられる存在である剣城にそんなことを言えるのは名前ぐらいであろう。
剣城はフッと鼻で笑い、引っ付いている恋人の頭を撫でる。



「名前ー!」

『あれ、天馬くん?おはよー』
「おはよう…じゃなくて!今日の部活の事なんだけど…」



苗字を視界に入れると必然的に入る剣城をお互い華麗にスルーし、天馬は朝先輩から賜った伝言を名前に伝えようとする。
流石に天馬が話にくそうだと剣城から体を離し、天馬へと歩み寄る。


京介くんも心なしか機嫌が悪そうだしね、とあえて剣城から離れたのだが、天馬と話を終えて後ろを振り返ると既にそこに人影はない。





『(…待ってくれてたっていいのに)』




彼の性格上、そんな事しないだろう。
やるせない気持ちのまま教室に歩を進めようとした時、不意に感じる人肌。
首から回された手には独特なリストバンドが見える。



『京介くん?あれ…いつの間に?』

「……気にくわねぇ」
『へ?』

「お前が俺以外の男と話てるのが気にくわねぇ」



声でわかる。今の剣城は機嫌が悪いと。
でも内容が内容なだけに名前は笑ってしまった。


「…なんだよ」
『いや…可愛いなぁと思って』


笑い止まないがまた気にくわなかったのか軽く首を絞める。
苦しいよ、と剣城の両手に腕を絡めれば今度は先程とは違う笑みを浮かべた。
ムッとした表情をしていたのが伝わったのか名前はごめんごめんと告げて剣城へ擦り寄る。


見かけに寄らず、随分可愛いものだ。
名前はまたいつか京介くんの目の前で天馬くんと話してやろう、なんて考えるのだった。





狼ハニー

(私の可愛い狼さん)

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