『蘭丸って美味しそうだよね』
「…あ?」
突拍子もない名前の台詞に意味も理解できず口から出てきたのはこれまた意味のない母音だった。
美味しい、とは一般的に食べ物などを形容する言葉であり決して人に使うものではない。
わけがわからないという感情が表に出ていたのか名前がポッキーを1本かじりながら付け足す。
『あ、性的な意味じゃないから』
「そんな事はわかってる」
『そう?ざーんねん』
「どっちだ」
パキリと景気のいい音を食べて折れるポッキー。
名前は胃袋に収まっていくそれをもう1本と手に取る。
いまだ胸の疑問が晴れぬまま冗談をかます名前を霧野がジトリとした視線で見つめる。
「で、どーゆことだよ」
『いやぁ……蘭丸の髪美味しそうだなって。あれだよ、そのツインテールちぎったら新しいツインテール生えてくるとかしないの?』
「ねぇよ」
若干夢見がちな名前に一刀両断な答えを返し、名前にチョップをかます。
結構な力で頭にチョップをくらった名前は唸り声のような声にならない声を上げ頭を抑えた。
チョップの衝撃で口に含まれていたポッキーが真っ二つに割れたようだ。
割れた半分が2人の間の机に落ちる。
『なにすんのさ〜』
勿体ないとそれを拾おうとした名前の手よりも先に霧野がの手がそれを手に取る。
『蘭丸?』
「俺を食べたいんだったらな」
『んむっ』
霧野は短く折れたポッキーを名前の口へ押し付け、同時に己の唇を押し付けた。
口内で薄らと溶けていくチョコに、音をたてる短いビスケット。
唇を離し、名前が肩で息をしているとその一方で袋に入ったままの綺麗なポッキーを手に取る。
「こうやって食べることだな」
霧野はニヤッと意地の悪そうに笑い、それを口に含んだ。
貴方は何味ですか?
(美味かったか?)
(……うん)
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