『蘭ちゃん、今日の晩御飯何がいい?』
「今日?あれ母さんは?」
『もー、朝言ってたわよ。お母さん今日の夜いないからって』
「じゃあ…姉貴のオムライスが食べたい」

『はいはーい』



「……霧野、名前さん」
「なんだ神童」



「今は部活中だ」

『知ってるよ?』



それがどうしたと言わんばかりにピンクの髪を揺らし頭を傾げるのは霧野蘭丸の姉、霧野名前。
お構いなしに交わされた会話を神童は羨ましいと思いつつも口には出せずにいた。

姉弟幼なじみとは言え中学生になった今では流石に昔の様に何でも言う訳にはいかない。


「っちゅーかオレも名前さんの飯食いたいし〜。霧野だけズルくね?」
「姉弟なんだ。ズルくもなんともない」

「それはさて置き、俺もオムライス食いたい」


挙手、南沢がひょいっと手を挙げれば俺も僕もと次々に挙がる手。
神童もその流れに乗って先程とは裏腹にひっそりと手を挙げている。
霧野が見るからに嫌そうな表情をするが名前は笑顔だ。


『私のご飯なんて普通よ?』

「名前さんのオムライス…」
「食べたいよなぁ」

『でも、そう言って貰えると嬉しいわ』


霧野は内心それ以上笑顔を振り撒くのは止めてくれと思うのだがあくまでも霧野は名前の意思を尊重して何も言わない。


『でも、残念だけど今日は人数分の材料を買いに行く時間がないからまた今度ね』

「えー!」


眉を下げ苦笑いな名前に声を上げる浜野だったが、霧野から無言で制裁を受けた。

背後からの霧野の一撃に一瞬の悶絶。
後頭部を押さえる浜野だったが、誰も心配をする者はいないようだ。



「休憩終了!切り換えて練習するぞ!」



手を打ち鳴らした神童は皆に同じくどこか残念そうだった。

少し肩を落とし、座っていた腰を上げた時に不意にその肩を叩かれる。



「名前さん?」



振り向くとそこに立っていたのは名前で、人差し指を口元に押し当て"しー"と聞こえる様に息を吐いた。
何事かとキョトンとする拓人に名前は囁く。


『拓人くん私のご飯食べたい?』
「え?」

『だーかーら、私のご飯』
「た、食べたい…ですけど…」

おずおずと言った様子の拓人に名前はニコリと笑う。



『じゃあ拓人くん。明日のお弁当は私が作ってあげるわ』



花の咲いた様な笑顔に拓人は面食らった。
さっきは材料がないから無理だと言っていたのに。

「姉貴ー!」
『あ、うん今行くー!』


霧野の呼び声に、名前は疑問に頭を悩ます拓人に囁きを残して駆けて行った。




『拓人くんだけ、特別なんだからね』





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(姉貴、何作ってるんだ?)
(んー?お弁当のオムライス)
(……誰の?)
(拓人くんよ?)

(神童ぉぉぉお!!)


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