明るくいつもクラスの中心にいて。
いつの間にか惹かれていた。
授業中、その背中を見ている時も頭を支配していたのは苗字と言う存在。
気持ちの気付いたのは最近。
それを伝えるきっかけなんてあるようでない。
『神童くん!プリント集めるけどある?』
「あ、あぁ」
そっけない返事しかできない。しっかりしてくれ俺。
いつもの俺はどうした。
『あ、神童くん!今日一緒に日直だからよろしくね』
プリントを片手に笑う苗字はやっぱり可愛かった。
思いを伝えるきっかけ、ヘタレだなんて言わせない。
―…と思った矢先にやって来る不運。
今日は部活の会議の日だった。
貴重な放課後の時間は刻一刻と削られていく。
こんな日に限って長引く会議にはイラつかざるを得ない。
時計の針は既に下校時刻。
終了直後に階自室を飛び出し、教室へ向かった。
もういないかもしれないけど。
一縷の望みを胸に抱いて教室のドアをガラリと開ける。
『お疲れ様!遅かったね』
「…悪い、苗字」
『いいよいいよ。気にしてないから!』
俺を待っていたのか、本を読んでいたらしい苗字は席から立ち、教卓の上の日誌を持って再び席に落ち着く。
隣の席は流石に憚られて、前の席の椅子を引き向い合せに座った。
距離がいつもより近い。
…いけ、言うんだ俺。
机の下に隠した拳を握り小さく息を吐いた。
日誌にペンを滑らせる苗字の手に自分の手を重ね、一回り小さな手を握る。
『神童、くん?』
大きな瞳が俺を貫いて、息が詰まる。
「好きだ」
手の中の苗字の手が少し強張った。
口から押し出した言葉に固まる苗字。
間が空いた後、見開かれた大きな瞳から零れ落ちたのは苗字の涙だった。
「苗字!?」
『ご、ごめ、違うの。その……嬉しくて…』
次々と零れてくる涙を必死に拭う。
その動作が愛しくて堪らなくて。
いつもとは違い俺の前で見せた弱い部分というもの…所謂ギャップ。
『私も、好きです』
机越しで苗字を掻き抱いた。
少し肩に涙が滲む。
でもそんなことはどうでもいい。
止まらない苗字の涙を拭い、俺はその濡れた瞼にキスを落とした。
君に溺れる
(こうして始まる君依存)
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