『京介は私のこと好きー?』


難しい文字の羅列する本をこれまた難しい顔で読んでいる剣城の背中にもたれ掛か
り、そのまま体重をかけて思いっきり後ろを向くつもりで空を仰ぐ。
自分の額あたりに剣城の髪の毛が微かに触れ、少しくすぐったさを感じた。
名前の言葉に一旦本から目を離した剣城だったが、しっかりどこで目を離した
かを確認していた為読んでいる所を見失うことはない。


「唐突だな」

『いいじゃん別に。私のこと好き?』


同じ問いを繰り返し。
先程より剣城の背中に体重をかけながら聞いてみるが剣城の視線は本に向いたまま
だった。
パラリと次のページを捲り、物語の続きに目を沿わす。

物語は終盤に差し迫っておりこれからが良いところだ。
名前に構って大事な話を中断させたくはない。


『ねぇってば』
「……後にしろ」

『やーだ。今がいーいー』


体を揺らし答えの催促をする名前。
こんな名前の読書妨害には慣れているためちょっとやそっとの揺れでは妨害の
域にもならず悠々と読書は続行された。


『も〜…私と本とどっちが大事なの?』
「今この瞬間なら本」
『うわ酷い京介ってば』
「ならもう少し大人しくしてろ」

『やだ』


剣城の返答に少し頬を膨らませ体を反転させる。
背中から覆いかぶさるように抱きついて背後から剣城の持つ本を覗き込んだ。

やはりこ難しい単語や感じの並ぶ本に名前は一瞬で頭痛を催した。
なんでこんな本普通に読んでるんだと思いながらも背後から剣城と同じ本の文字を目
で追っていく。


『…目ぇ痛い…』
「なら読まなきゃいいだろ」

『剣城と同じ目線になりたいだけ』


意外なことを言う名前に今度は剣城が完全に本から視線を外し、読者中の物語が途中で途切れてしまう。


『あれ、どうしたの京介』


ページを機械的にめくっていた剣城の手が止まったことに違和感を持った名前がまた一段と体重をかけて剣城に顔を近付けた。
吐息が掛かりそうな程近い距離。
既に剣城の本への意識は薄れてしまっている。

目の前に迫った名前の顔に剣城はハァ、とため息を漏らした後無防備な頬に口付けた。





「ちゃんとお前のこと好きだから安心しろ」

『……不器用』





バツの悪そうな表情で囁いた後、剣城は途中で途切れた物語にもう一度目を通し始めた。








でもなんだかんだ言って要するに好き

(…そんな京介が好きなんだけどね)

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