馬鹿で根暗で引っ込み思案。
後ろ向きにしか考えられなくて周りに人が集まることなんか一度もなかった。
だから居心地の悪い教室から逃げ出していつもグランド近くのベンチでボーッとしている。

二年生になってもその休み時間の使い方は変わらず。
ここ一年半ぐらいの休み時間はずっとここにいると思う。
別に一人が寂しいとは思わない。それが私の生き方なんだって思ったら人の目もあんまり気にならなくなった。
ただ、友達を作りたいなぁと考える事はしょっちゅうある。
ベンチで空を仰ぎ、誰も聞いていないであろうため息を一つ。
吐き出した息は空気に溶け込んでいくだけ。


「どったの苗字、何かあったのかー?」
『っひゃあ!?』

「あ、ワリワリ。脅かす気はなかったんだって!」


突如私に降り懸かった声にベンチからひっくり返りそうになったのをなんとかこらえ、声の主と目を合わせる。
悪びれた様子もなく両手を合わせているのは同じクラスの浜野くんだった。


『びっくりした…』
「んで何かあったん?」

『え?いや、大したことじゃないから…』
「じゃあ何でため息?何も無くはないっしょー」


なんだか笑顔が突き刺さる様だった。

きっと浜野くんみたいな人にはたくさんの友達がいるんだろうなぁ…。
私なんかとは比べものにならないぐらい明るくて、人の心配をすることができて。


「……俺の顔に何かついてる?」
『あ、ごめんそうじゃなくて…浜野くんが羨ましいなぁって』

「俺?」


己で褐色の肌を指差し首を傾げる浜野くん。
そんなころころ変わる素振りが面白いなと思う。


『私も浜野くんみたいになれたらなぁ…』


なれないってわかってるけど。
行動しない自分が悪いっていうのもわかってるけど。
羨ましいと思わずにはいられない。

どうせ人は無いものねだりだから。


「苗字は苗字でいいじゃん?俺は苗字が羨ましいけどっ」
『…私が?』
「だって苗字、よくこの辺の猫に好かれたりしてんだろ?いいよなー。俺なーんか知らないけど逃げられんだよね」
『…なんでそれを…』


まさかそれを知られてるとは思わなくてビックリした。
私みたいな蚊帳の外な人間を見ている人かいたなんて…。


「だって俺苗字のこと好きだし」

『…ん?』


今なんだかおかしな言葉が飛んできた気がする。


『浜野くん……あの、今』
「ちなみに、冗談なんかじゃないからな。友達からってことで!」
『え、えぇ…?』

「んじゃ、そろそろチャイム鳴るし行くかー」
『えぇぇぇ!?』


ぱしっと手を掴まれ駆け出した足は浜野くんに釣られて前へ踏み出される。
驚きの勢いで引っ張られた手。

そして思いもよらぬ形でできた初めての友達に、このまま彼の流れに乗せられてたら私も変われるかな、なんて思い始めていた私がいた。





初めましてこれからよろしく

(はっ、浜野くん!)
(ん−?)
(えっと……よろしく、ね)

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