『たいよーくーん!あーそーぼ!』


幼い私の声。
これは私の昔の記憶だ。


「いいぜー!サッカーするか?」
『うん!あ、でもてかげんしてよ!』
「よっしゃ!いくぜ!」


サッカーボール片手に駆けていく太陽を追いかけて。
ホントは走ったら私なんかよりも早いのに、わざと歩幅を合わせて走ってくれている太陽。
私がこけそうになったら手を引いてくれる。

そんな優しい太陽に導かれるままに私は育っていった。




『太陽!元気してるー?』


病院のドアをスライドさせて太陽が寝てるであろう病室に足を踏み入れる。
でも陽々と踏み入れた足は一歩二歩で止まってしまった。

『…あれ?』

目的である太陽が病室にいなかったから。


『…どこいったんだろ』
「太陽くんならまた中庭に逃げたわよ」
『あ!冬花さん。』


病院に通っている間に仲良くなった看護師の冬花さん。
優しくて、おしとやかで素敵な人だなぁといつも思う。

が、今の問題はそこじゃない。

太陽が"また"逃げた。
これは結構頻繁に起こる事故というかなんというか。
私がここに来た時だけではないけど太陽はよく病室を抜け出すらしい。


『中庭ですよね…』

「名前ちゃん、見てきてくれるかしら?」
『はい。行ってきますね』


鞄を太陽のベットの横に置いた。
そして不躾だとわかりつつも太陽が出て行ったと思われる窓に足をかける。


「いつもごめんね」

『こっちこそ毎度こんなところからすいませんっ!いってきまーす』


太陽に付き纏っていたせいでついた運動神経に少し感謝。
芝生のある地面に降り立ち、まずは辺を見回してみる。
視界に太陽の姿はない。

そこで私は視界に頼らず聴覚に頼ってみることに。
目を塞いで視覚を封じれば敏感になる聴覚。
かすかに聞こえる音に全神経を集中させていく。


『…みーつけた』


そして音を頼りに足を進めていけばお目当ての人物がベンチで項垂れているのが見えた。



『太陽っ!』
「うっわぁ名前!?」

『うっわぁじゃない!ほら、冬花さん待ってるよ!』
「いーじゃん別に!ほら、名前も寛ごうぜ!」
『……5分だけね』



病院服を引っ張って部屋に戻らせようにも動く気のない太陽に諦めと少しの呆れを持ちながらため息。
すると太陽はやりぃ!ともう一回ベンチに座り込む。


『もー……』
「まーま、ピリピリするなって」


ニヒヒと笑う太陽の笑顔に思わず呆れも溶けていく。
なんでかこの笑顔には変な癒し効果があるらしい。
何度この笑顔に流されてきただろうか、数えるも無駄なぐらい。


「…あの部屋に戻んの嫌なんだよ」
『!……病室?』

「まぁ慣れてきたもんなんだけどな」
『太陽……』


一緒にサッカーをしていた面影を胸に私はグっと唇を噛む。
知ってる。知ってるよ。


「よっし…戻るか」
『……うん。冬花さん待ってるしね』


先にベンチから立ち上がり、太陽に私が手を差し出した。




『ほら太陽。行こっ』




だから、今度は私が手を引く番。








手を引いて歩く道は

(病室までの道のりだけ)
(私は昔のキミになれる)

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