自分の愛情表現が不器用なことは自覚してる。
いや、愛情表現と言う前に私は素直になるべきなのだ。
いっつもいっつも思ってる事とは検討違いな事を言ってしまうこの口が。


『まーた拓人ってば試合中に泣いたんだって?』
「なっ…!泣いてなんかない!」

『だって蘭丸から聞いたもーん』
「霧野っ…!」
『泣き虫拓人くんっ』
「うるさい!」


我ながら可愛くない。うん。実に可愛くない。

ホントは私の前で弱みを見せてくれない事が寂しいだけなのに。
試合中なんかじゃなくて私の前で泣いて欲しい。

そんな変な嫉みと素直になれない馬鹿みたいなプライドがぶつかり合って。
結局こうしていがみ合いになる。


『なんで私ってこうなんだろ…』

「だから本人に言えよ」
『無理だから蘭丸に話してるんでしょ』


こんな可愛くない自分への愚痴はこうしてひっそりと蘭丸に吐き出すことで処理している。

いいよねぇ幼なじみ。私の気持ちを理解してくれるからため息を吐きつつもちゃんと聞いてくれるから。
拓人が先生や先輩に呼び出されてる間の休み時間の一角は時にこうして潰れていくのだ。
(今日は三国先輩からのお呼び出し)


「いつまで俺に愚痴ってる気だよ」

『……さぁ?』
「さぁじゃない。お前らの板挟みになってるのは俺なんだぞ」


机に突っ伏した頭に降り懸かる蘭丸のお説教。



『わかってるんだけどね…』

「わかってるならなんとかしろ」
『無理』
「即答か」

『そう簡単に素直になれたら私こんな風になってない』



愚痴に関しては素直だと思うけど。
なんて意味のない抵抗は吐き出さずに飲み込んだ。

顔を上げないでもう一回聞こえてきたのは蘭丸のため息。
一応こっちは真剣なんだからそんなにため息ばっかつかないで欲しい。


『なによー蘭丸』
「名前がハッキリしないのが悪い」


ごもっともなんだけどなんだかスッとしない。



『…私はただ拓人が好きなだけだもん』



本人には言えないけどね。
蘭丸言わないでよ、と顔を上げて蘭丸と目を合せた………筈だった。



「名前……?」
『……は?え、拓……!』

「ほら、さっさと素直になれよ2人とも」


蘭丸が席を立つ。
その視線の先にはある意味今一番会いたいようでで会いたくなかった人物が立っていた。

嘘。いつ帰ってきたの。
蘭丸確信犯かあいつ。
拓人に聞かれた?聞かれちゃった?

整頓の出来ない思考がぐるぐるぐるぐる。
あ、駄目だ今すぐこのシンとした空間から逃げ出したい。



「……名前。あの……」
『っ!!!!い、今の聞かなかったことに「し、ないからな!」
『は……っ?』

「お、俺だって名前のことが………っ!!」




その先のことはご想像にお任せします。
と、霧野蘭丸からのご達示でございます。







口走る気持ちを

(素直でも素直でなくても)
(それが自分の気持ち)

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