『いってきまーす』
「名前ー、ごみ持って行ってねー」

『はーい』


平凡な一週間の学校の始まりはお母さんに促されるゴミ捨てから始まる。
玄関に二つ積まれたゴミ袋にはぱんぱんにゴミが詰め込まれていて短期間で家のどこにこんなにゴミが出るのかが毎回不思議に思う。

両手にゴミ袋を抱え、学校指定の鞄を背負った。
ドアノブを頑張って捻り、体でドアを開ける。
うちはマンションなのでゴミ置きが指定されている。
つまりは面倒だけどゴミ置き場に寄らなければならないのだ。
毎週のことだからもう慣れたけど。

階段を下りて自転車置き場とは反対方向に足を向ける。
この曲がり角を曲がるときっと"あの人"がいるはずだ。
いつも私と同じ、親にゴミ捨ての使命を課せられたであろうあの人が。



『あ』

「あ」



毎週顔を合わせていればあっちも流石に私を認識してくれたらしい。
ゴミをゴミ置きに放り投げながら顔を見合わせてお互い短い声をあげる。

私の通う学校は月山国光。
でも名前も知らない彼の制服は雷門。
マンションを出てから私と彼は右と左に別れてしまうし、まともに顔を合わせるのはこの場しかない。

今日も今日とて別の道を行く。

次に彼に会えるのは来週。
それまで私は密かに名前も年齢も知らない彼を思い続ける。
同じマンションの住人だし、きっと会おうと思えば会える…と思う。
でも私はあえて何もアプローチはしないでいた。

あの月曜日の朝の時間がなんとなく好きだから。






そうして次の月曜日はやってくる。

今日のテレビの占いは見事1位。
なんだかいいことがありそうな、そんな気がしていた。


「ゴミお願いねー」
『はいはいっと』


今週のゴミは3袋。
私の手は2本しかないのに何たる仕打ちだお母さん…。
鞄を背負って大きなゴミ袋を抱えて、家のドア開けるのにも一苦労して階段を下りていく。

今日もいるかな、そんな淡い期待を胸に。



『あ』

「おっ」



―いた。

曲がり角を曲がる前に、彼は建物の影から現れた。
もうその手に袋はない。
既に捨てたあとであることが伺える。


『あれ…?』


だけど私がそれ以上に吃驚したこと。
彼の制服が、見慣れた私の学校の……月山国光の男子制服になっていた。


「あぁ、俺今日から月山国光に転校すんだ」
『そうなの!?あ、そうなんですか?』

「同学年だぜ、敬語なし」
『同学年!?』
「そ」
『あっ』


会話の途中で私の手にあったゴミ袋が2つがひったくられていた。
すたすたと前を歩く今さっき同学年だということが判明した彼。
ゴミ置き場にそれを放って、それに続いて私もゴミ置き場に残り1つのゴミをを放る。


「ってことで、今日からは同じ方向だぜ。よろしく名前チャン?」


なんで私の名前知ってたんだとか、学年知ってたんだとか、言いたいことはいっぱいあったけど。
ゴミ置き場から始まった恋はいつの間にか登校道への恋に変わっていきそうな予感がした。

いつもは雑用を押し付けるお母さんに感謝したのは後にも先にもこれが最後だった気がする。








朝にあるそんな話。

(あ、学校の道わかんねーから案内よろしく)
(それくらい調べといたほうが…)
(いや、名前がいると思って)

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