そこら辺の自販機でジュースを買ってプルタブを人差し指の爪に引っ掛けて開けた。
プシュ、と中の空気が音をたてて抜けていけば心なしか気持ちも爽やかな気分になる。


「あ、ずりー倉間」

「南沢さんも買えばいいじゃないですか」
「オレ今金欠なんだよ」


缶を隠すように南沢と反対に上体を捻り、冷たいジュースをまた一口。
隣で嫌みな奴、と南沢が悪態を付く。
そんなこと気にせず倉間はジュースを渇いた喉に流し込んでいく。

喉元を刺激的に通り過ぎる液体に、やっぱジュースは炭酸だなと妙な核心を胸に抱けばポケットに入れている小銭が音を立てた。
小銭ももう一度自販機に入れて今飲んでいるのと同じジュースのボタンを押せばガコンともう一本。
教室で飲もうと新たに買った新品のジュースをポケットに突っ込む。


「金持ちー」
「奢りませんよ」
「チッ」

『あれ、倉間くんもジュース?』


自販機の前での討論の最中。
男二人が並んで会話をしていた声とは違う声が背後に飛んできて先輩と後輩の会話は中断される。

2人の後ろからててて、と小動物のような効果音をつけて歩いてきたのは倉間と同クラス、サッカー部マネージャーの名前だった。
その手には中学生女子らしい可愛らしいキャラクターの付いた財布が握られている。
自販機に財布、この2つの条件が揃うということはすなわち名前はこの自販機で何かを買おうとしているのだろう。

"先輩もこんにちはー""おー"と軽い挨拶を交わして自販機の前へ。


『それ美味しいよね!私もそれ買いに来たんだー』
「…マジで?」
『うん。』

「じゃーやるよこれ」
『え?』


倉間の持っているジュースに気付いた名前が笑顔でそれを指さした。
目的がポケットに入っているこの缶であるということが分かればそれを差し出すだけだ。


『いいの?』
「ん」


南沢が意外そうに目を丸めているが倉間の手には間違いなく新品の炭酸ジュース。


『ありがとう!』


それを名前に手渡すともう片方の手に持っていた既に空いている自分のジュースに口を付ける。
まだ冷たいジュースをタダで手に入れることができた名前は満面の笑みを浮かべてプルタブに指をかけた。



プシュッ

『わっ!?』



缶を空ける音。
確かに倉間と同じ音に間違いはなかったのだが確実に威力は桁違いだ。

弾ける炭酸水。名前の頭から降りかかる二酸化炭素と砂糖を含んで粘つくのはジュース。

ジュースをひっかけられた名前はプルプルと震え、その手は拳を握り締めている。



『倉間くん…?』
「それ、ポケットの中で振ったぞ」


『もー!倉間の馬鹿ー!!!!!』



粘ついた髪を洗いに行く為に水道へと走り去っていった。
中身の殆ど出てしまった缶は足元に虚しく転がっており残りの中身をまき散らしている。



「倉間お前……」

「あぁ、わざとですよあれ」



そういって悠々とジュースを飲む倉間に南沢は素直じゃない後輩の恋路を心配するのだった。








好きな娘ほどいじめたい
(南沢さんならわかるでしょ?)
(…まーな)

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