北海道の雪原に人影が2つ。

その内の一人雪村はもう一人の人物、名前の後ろを歩きながらふぅっと白いため息を吐いた。



『かまくら作ろかまくら!』



唐突に言い出した幼なじみに従う以外の術はなく。
昔から名前は唐突に意味もないことを言い出しては雪村を連れ出していく。

この間までランドセルを背負っていた子供だ。
しょうがないといえばそれまでなのだが雪村にはいかんせん名前の意図が掴めないでいる。
特に意図がないという説も否定はできないのだがその仮定は今はしないでおこう。
雪村は前方ではしゃぐ幼なじみの後ろ姿を黙って見つめた。


『ほーら!雪ちゃんも手伝って!』

「はいはい」


バケツも何も持って来なかったらしい素手で冷たい雪を掻き分け、山を作っていく。
どうせ名前が何も持って来ていないことの予想はついていたが自分で持ってくるのも釈だったから雪村も手ぶらで来ることにしていたのだ。
素手で雪に触れるのは尋常じゃない冷たさだが幼い頃よりこの雪と隣り合わせに生きていれば気にもならなくなってしまった。
昔は二人揃って両手を霜焼けにしたものだったのに。
慣れって怖いな…かまくらの形を整えながら雪村が思う。


『雪ちゃんこっちに雪ちょーだい!』

「自分でやれよ…」
『だって雪ちゃんの方が早いんだもん』
「ったく…」


形は私がやるから!と場所をチェンジ。

丸型の雪山さえできてしまえばあとは中に穴を掘っていくだけ。
結構な高さの雪山に穴を開けるのはなかなかの徒労を要するだろう。
だがその徒労すらも楽しみに変えてしまうのが幼さというものの武器とも言える。


『もーちょっと…』

「よし、もう開くぞ」
『やったー!!』


雪山の真ん中にあいた真ん丸な穴。
人が丁度2人入れるか入れないか、そんな大きさだが子供である2人には収まりがいい。
並んでいるば少し肩はぶつかり合うものの問題のない大きさだ。


『あったかーい…』
「やっぱりあるとないとでは違うよな」

『うわ、雪ちゃん手つめたっ!』
「そりゃ雪素手で触れば冷たいだろ」
『嘘っ私こんなあったかいのに』


そう言って雪村の手を取る名前の手は雪を触ってたとは思えないぐらい暖かい。



「…暖かいな」

『でしょー?』



かまくらの中で2人ギュッと手を繋いで暖をとる。
雪村の手は名前の体温に相まってすぐに暖かくなった。

子供体温、とでも言うのか。

自分も同い年な事も忘れて名前の熱を奪っていく。


『えへー、雪ちゃんあったかくなったでしょ』
「…まぁ…」


握った手に息を吹き掛け、徐々にに温度は上がっていく。



『実はこうしてたら雪ちゃんと手堂々と繋げるから提案したんだよね』



かまくら内だけに響くような小さな声で名前が囁いた。
横を向けばその頬は寒さからか羞恥からか赤く染まっていて。

雪村は無意味なかまくら作りに意味を見出だし、付き合ってやった疲れと言葉にならない名前に対する思いでまた体温が上がっていく気がした。





かまくら作りの意図
(名前…いつまで手繋いでるんだ?)
(さぁねー)

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