視線の先にいるのがお前だった。
前の席にいるから当たり前って言っちまえばそれで終わりだ。

それでもその視線を外さなくなったのはいつからだろう。

プリントを配るときに後ろを振り向く時だとか。
消しゴムを落としてちょっと横顔が見えたりだとか。
そんな些細なことで一瞬鼓動が早くなる。


「なーんか倉間のキャラじゃなくね?」


俺らしくもない。
自分でも思ってたがまさか浜野にまで言われるとは。
浜野も浜野でそんなキャラじゃねーだろと言おうとして止めた。
手に持っていたコーヒー牛乳を一口。
ストローから口に運ばれる液体はずっと俺にパックをつかまれていたせいか大分温くなっていた。


「マジぃ」

「そりゃそうですよ」
「それ休み初めからずっと持ってんじゃん」


そういやそうだったか。
持ってた事を忘れたわけじゃなかったがそれほどまで長く持っていたらしいそれを中身が残ってると分かりながらゴミ箱に投げ入れた。
残り少なかったっぽいから別に怒られやしねーだろ。


「あ、捨てた」
「いーんだよ」


ふとゴミ箱から視線を戻せば向かいに座ってる浜野越しにアイツの後ろ姿。
どうやら日直らしく黒板の板書きを消している途中のようだ。

あ、あいつ上まで手届いてない。
そんな消し方したら服にチョークの粉付く…ってあぁ付けやがったほれ見ろ。



「…倉間くんニヤけてますよ」

「………え」

「わっかりやすいなぁ。俺の後ろ?」
「えぇ。黒板です」



振り向いたらそっちを見てることがバレるからと浜野は振り向かないが横に座ってる速水に視線の先に気付かれた様で。

そんなに俺あいつのこと見てたか…と思うが見てたんだろう。多分。
無自覚って怖いよなぁとなぜか他人事のように思う。

でも視線はあいつから外れない。
慌ててチョークの粉をはらっている姿に今度は頬が緩むのが自分でもわかった。
こんな時この2人が変に空気の読める奴らでよかったと思う。


「倉間くんにもっと身長があれば手伝いに行けるのに…」
「どういうことだ速水」

「あぁ〜あいつも身長ちっちゃいもんな。倉間となら釣り合い取れるんじゃね?」
「……浜野シバくぞ」


けらけらと笑う浜野にさっきのコーヒー牛乳捨てなきゃよかった。
そしたら俺はコイツになんの躊躇いもなくそれをぶっかけてただろう。間違いなく。


「いつからだよ?あいつに惚れたの」

「……さぁ」

「さぁって…好きなんでしょう?」


好き。
確かにあいつのことが好きだ。

でもいつからなんて聞かれて答えられない。

だって記憶をいくら辿ってもあいつに惚れた瞬間にはたどり着かないのだから。








気が付きゃ恋してた

(しょうがねーだろ)
(アイツが好きなんだから)

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